国家を代表する個人に対する「強制」は不法だった
2019年08月22日
日本企業は、中国人元徴用工に対して任意で慰謝料等の支払いを行ったが、韓国の元徴用工の訴えに対しても、被告企業の側から、同様の動きが出るのが望ましい。しかも、ドイツの例に見るように(杉田論考2019年3月8日、3月12日付<下記>)、長期的な「国益」――日本の長期的な国際的信頼――を考慮すれば、他の企業(戦後出発した企業さえ)を含めてそうしてよいのである。
ドイツを鏡にして、韓国人被害者に賠償を
戦争加害の資料館・記念館建設と共同教科書作成を
ドイツと日本の歴史はおのずと異なるとはいえ、おびただしい数の企業(とくに財閥系企業)が、朝鮮半島を商品市場・資本市場としつつ、膨大な利潤獲得・資本蓄積をはたした事実をふまえれば(山辺健太郎『日本統治下の朝鮮』岩波新書、180頁以下参照)、そう言わなければならない。
問題は、徴用工労働によって利益を上げた企業のうちには補償を考慮している企業もあるというのに、日本政府がそれを抑えていることである。かつて、「債務者側において任意の自発的な対応をすることは妨げられない」という判決を最高裁は下したのに(「河野外相こそ無礼。日韓関係を考える最低限の条件」)、驚くべきことに、日本政府は単に「解決済み」とくり返すばかりか、「賠償命令に応じないよう個別企業に圧力を行使した」というのである(しんぶん赤旗2019年7月24日付)。
だが、司法が行政を「抑制」checkし、「均衡」balanceをはかることは、三権分立の最も基本的な機能である。日本の最高裁が、中国人「慰安婦」裁判および中国人徴用工裁判において、加害企業が個人に対して補償する道は法的に残っていると認めているのに、行政府が、三権分立の原則・司法府の判断を無視して当該企業に圧力をかけることなど、とうてい許されない。
「元徴用工の韓国大法院判決に対する弁護士有志声明」において、ある弁護士グループが、日本政府に対して元徴用工の請求権を実質的に認めるよう主張しているが、首相寄りのある論者は、それに対して「〔企業による〕そのような任意履行がどれだけ日本人の名誉や日本国の地位を貶めることになるのか、分かっているのでしょうか?」と指摘する。だが逆に、非人道的な被害を与えた当事者が賠償責任をはたさないことこそ、むしろ「日本人の名誉や日本国の地位を貶めること」なのではないか。
企業自体にも瑕疵(かし)がある。例えば新日鉄住金(現日本製鉄)は韓国高裁の判決を不服として同最高裁に上告さえしたのに、その判決を不服として判決を無視している。その御都合主義は、社会的に非難されなければならない。
むろん、請求権協定それ自体を問題化することも可能である。
そもそも、同協定は東西冷戦の下に成立した。そしてその代理戦争の場となったかのように、朝鮮半島の分断が固定され、韓国内では独裁政権による民主主義の抑圧が長くつづいた。
だが、冷戦と同時に独裁体制がくずれ、同時に自由な歴史研究や被害当事者の自己表明(例えば「慰安婦」の)が可能となることで、植民地時代のさまざまな事実が明らかとなってきた今、同協定の拘束下でも、多様な取り組み――それは事実上、同条約の部分的な見直しに通じる――は実際可能である。
日本政府はこの間、一貫して論及を避けているが、請求権協定があろうが、在サハリン韓国人の一時帰国・永住帰国支援事業に基金を出したし(日本赤十字社「在サハリン『韓国人』支援事業」)、在韓被爆者支援事業にも(それがいかに不十分なものであったとしても)やはり基金=「在韓被爆者支援特別基金」を出したのではなかったか(中国新聞2012年3月30日付)。
くわえて、日本国籍をもたない在日の元軍人・軍属――在日朝鮮人は、1952年サンフランシスコ平和条約発効後に一方的に国籍をはく奪され、傷病者および戦没者遺族に対する恩給や遺族年金の支給等を規定する、同年施行の「戦傷病者戦没者遺族等援護法」からはずされた――に同援護法を適用して、見舞い金をはらった事実もある(姜誠他『「マンガ嫌韓流」のここがデタラメ――まじめな反論』コモンズ、56頁)。
そうだとすれば、今回の韓国大法院決定に対して、「完全かつ最終的に解決された」とオウムのようにくり返すばかりか、被告企業の任意補償(名目が何であれ)の意向に対し圧力を加えようとする日本政府の姿勢は、厳しく問われなければならない。そうではなく、被害者個人に対する補償に対してさえ、日本政府が名目はどうあれ一定の基金をつくることは不可能ではないはずだ。
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