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朝鮮人徴用工にまつわる右派の誤解を正す

供与された3億ドルは「ひも付き」だった

杉田聡 帯広畜産大学名誉教授(哲学・思想史)

新日鉄住金に対する損害賠償訴訟で、10月30日の韓国大法院判決後に記者会見する元徴用工ら=東亜日報提供拡大新日鉄住金(現・日本製鉄)に対する損害賠償訴訟で、韓国大法院判決後に記者会見する元徴用工ら=2018年10月30日、東亜日報提供

3億ドルは「ひも付き」だった

(4)日韓請求権協定にもとづいて日本が供与した無償3億ドルには個人補償金が含まれている(河野外相HP)。――供与された3億ドルも貸し付け2億ドルも、実は「ひも付き」だった。いずれも、「大韓民国の経済の発展に役立つものでなければならない」と明記されており(第1条第1項(b))、しかも韓国政府に現金が手渡されたのではなく、供与の対象は「〔3億ドルに〕等しい円の価値を有する日本国の生産物及び日本人の役務」であり(同上(a)、強調杉田)、貸し付けもこれに準じている(第1議定書第2条第1項)。

 要するに、供与された3億ドルは「日本国の生産物」、つまり日本製機械などの固定資本、日本製原資材などの流動資本、そして「日本人の役務」という可変資本の購入にあてられたと判断される。つまり日本政府が、自国企業の製品・サービスを日本円で(第1議定書第4条第1項)買い取り、それを韓国側に提供する、というのが3億ドル供与の実態である。

 おまけに韓国側は、無償3億ドルの請求権資金にかかわる「実施計画」を日本政府に提出することまで義務づけられた(同第5条第2項(a))。これでは韓国への資金拠出は、一般の「政府開発援助」ODAよりたちが悪いと言わなければならない。

 したがって、無償3億ドルの一部を――例えば韓国人被害者の補償のために――現金化せんとすれば、日本製品・サービス等をえた韓国企業から特別な法人税等を徴収するしかなかったと思われるが、韓国政府としては、「大韓民国の経済の発展に役立つ」よう韓国企業の利潤を極大化する経済政策をとらなければならなかっただろう。その時、どうやって韓国人被害者に十分な補償ができるのか。

 無償3億ドルが個人補償にあまり回らなかったのが事実だったとしても(文京洙『韓国現代史』岩波新書、111頁)、またその下には、開発独裁をめざす朴正煕政権の政治的判断があったのだとしても、そもそも日本政府が、個人補償を埒外において、各種「生産物」――それはベトナム特需がらみの物資を多く含んでいたが(朴根好『韓国の経済発展とベトナム戦争』御茶の水書房、84頁)、おそらく国内ではもはや売れなくなった商品をも含んでいただろう――を売りつけたい日本企業の思惑を最優先したのが、個人補償がほとんどなされなかった大きな要因だと見なければならない。

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筆者

杉田聡

杉田聡(すぎた・さとし) 帯広畜産大学名誉教授(哲学・思想史)

1953年生まれ。帯広畜産大学名誉教授(哲学・思想史)。著書に、『福沢諭吉と帝国主義イデオロギー』(花伝社)、『逃げられない性犯罪被害者——無謀な最高裁判決』(編著、青弓社)、『レイプの政治学——レイプ神話と「性=人格原則」』(明石書店)、『AV神話——アダルトビデオをまねてはいけない』(大月書店)、『男権主義的セクシュアリティ——ポルノ・買売春擁護論批判』(青木書店)、『天は人の下に人を造る——「福沢諭吉神話」を超えて』(インパクト出版会)、『カント哲学と現代——疎外・啓蒙・正義・環境・ジェンダー』(行路社)、『「3・11」後の技術と人間——技術的理性への問い』(世界思想社)、『「買い物難民」をなくせ!——消える商店街、孤立する高齢者』(中公新書ラクレ)、など。

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