物語を通して何かを感じて心を動かしてもらう。それがエンターテインメントの役割
2019年08月31日
7月19日に全国359館、448スクリーンで封切られた新海誠監督の新作「天気の子」が驚異的なスピードで動員数を増やし続けています。8月22日、配給元の東宝が、公開から28日間で観客動員数750万人、興行収入100億円突破と発表。異例といわれるインドでの公開も含めて140カ国での配給が決まり、トロント国際映画祭への出品も決定しました。新海監督にこの映画に寄せる思いなどを聞きました。(聞き手 丸山あかね)
新海誠(しんかい・まこと) 映画監督
1973年生まれ、長野県出身。2002年、個人制作した短編作品「ほしのこえ」でデビュー。2004年、初の長編映画「雲のむこう、約束の場所」、2007年「秒速5センチメートル」、2011年「星を追う子ども」、2013年「言の葉の庭」を発表。2016年に公開された「君の名は。」は、「千と千尋の神隠し」(01年、宮崎駿監督)に次ぐ歴代2位の興行収入を記録。第40回日本アカデミー賞においてアニメーション作品では初となる優秀監督賞、最優秀脚本賞を受賞した。
大袈裟な言い方をしてしまえば、社会から役割のようなものをもらってしまったという感覚です。
今作は「君の名は。」の次回作だからということで、たくさんの人に観ていただけると想定し、作品を通して何を語るべきなのだろう?と、ずいぶんと考えた末に、これかなと思えたのが「天気」というテーマでした。
たとえば今年のように梅雨が長いと人々の心は鬱々(うつうつ)となる。逆に晴れ渡っていると、小さなことはいいかというようなポジティブな気持ちになりますよね。人の心は天気とつながっているのだという気づきが、発想の原点でした。それに、誰もが天気を気にしながら暮らしている。つまり共通の関心事であることも一つの決め手になりました。
でも、いよいよ物語を作るという段階になって僕が天気に対して抱いていたのは、環境問題をめぐるシリアスなものでした。
たとえば日本には四季があって、人々は穏やかに移り変わる季節の中で、情緒を育みながら暮らしてきました。僕がこれまでの作品で描いてきた自然現象も、長閑(のどか)なことが前提だった気がします。
ところが気づけば、日本から四季は失われつつあり、ゲリラ豪雨などの気候変動に脅威を抱くようになっている。こうしたことを顕著に感じるようになった時期と、今作について具体的に考え始めた時期が重なっていたんです。
気候変動は地球温暖化の影響であると科学的に言われているし、人間が便利さを追求するあまりに自然体系を壊してしまったのだと多くの人が自覚しているのに、僕らは今の暮らしを手放すことができずにいます。このジレンマを、エンターテインメントの枠組みの中で扱いたいと考えたことが、「天気」をテーマに据えた一番大きな理由でした。
どんな作品もある一つの価値観を提示している以上、その価値観に賛同してくれる人もいれば、そうでない人もいるのは当然のことです。とはいえ、想像を超える大勢の人に観ていただいたことによって、自分では考えもしなかったような批判をたくさん受けたことは事実です。
わかりやすいところでは、「『君の名は。』という映画は災害をなかったことにしている」といったもの、「代償もなしに人を生き返らせた映画だ」といったものがありました。僕としては「未来は変えられる」という希望に満ちた作品、あるいは「大切な人に生きていて欲しかった」という願いそのものを描きたいと思って手掛けた作品だっただけに、そういった感想に驚きました。
でも、それは同時に、大きなボリュームの観客に出会うとこういうことが起きるのだという発見でもあり、経験できてよかったと思っています。この経験を経て、僕は前作で怒らせた人をもっと怒らせてしまうような、言い方を変えれば、誰かの価値観と価値観がぶつかるような「正解のない」作品にしようと方向性を定めました。
「天気の子」は、帆高と陽菜がそれぞれの境遇を乗り越えて自分の生き方を決めていく物語ですが、自分ならこんな選択はしないとか、
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