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“断韓”「週刊ポスト」を、小学館OBが叱る!

野上 暁 評論家・児童文学者

「週刊ポスト」「韓国なんて要らない」という特集を組んだ「週刊ポスト」9月13日号

 9月2日付の「朝日新聞」朝刊に掲載された「週刊ポスト」9月13日号の広告を見てぶっ飛んだ。“総力大特集”として、“日韓関係「禁断のシミュレーション」”を頭に置いて、超特大のゴシックで「韓国なんて要らない」というベタ白抜きの文字が目に飛び込んできた。その脇に“「嫌韓」でなく「断韓」だ/厄介な隣人にサヨウナラ”とある。同日発売のライバル誌「週刊現代」の倍のスペースをとっての広告だから、その力の入れようも尋常ではない。編集部はもちろん、宣伝部も販売部も了解の上での大宣伝か? 小学館で禄を食んできた一人として、理解し難いどころか、にわかに怒りが込み上げてきた。

 テレビ各局も、このところ徴用工問題でこじれた日韓関係を毎日しつこいくらい取りあげている。直近では、大統領の側近中の側近の相次ぐ不正疑惑が、文在寅政権を揺るがしかねないと、まるで鬼の首を取ったかのように連日取りあげられている。国内のモリカケ疑惑が闇の中に葬り去られ、まるでなかったことのようにされている中で、韓国大統領の側近の疑惑を大きく取りあげるというのも異常だが、それにしても「韓国なんて要らない」とは?

 「嫌韓」ではなく「断韓」とは、韓国を断つ、つまり国交を断絶しろとでもいうのか? 国際関係にも影響しかねない、こんな常軌を逸した独断と偏見でナショナリズムを煽るような記事を特集して、それを全国紙の広告でアピールすることは、発行元である小学館の100年近くも続く出版社としての歴史と品位が問われかねない由々しき事態で、OBとしても黙ってはいられない。

 小学館は現社長の意向もあって、編集部の独自性や編集の自由が尊重されてきたから、各編集部や編集者の信念に基づき、様々な企画を誌面に反映することが出来た。それが商業出版社における表現の自由であり、編集者の腕の見せどころでもあった。それを逆手に取ったかのように、隣国を口汚くののしり差別を助長するような記事を提供するとは理解しがたいものがある。

日本人の対韓感情に大きな影響

 誌面をひらいて見ると、見開きの上段3分の2を、ベタ白抜きで「厄介な隣人にサヨウナラ 韓国なんて要らない」のタイトル文字が占める。この誌面作りも煽情的だ。リードには「隣国だから、友として親しく付き合わなければならない――そんな“固定観念”を一度、考え直すべき時期なのかもしれない」として、「断韓」、つまり韓国との関係を断つことによるメリットとデメリットを取りあげて堂々10ページの大特集。「軍事」「経済」「スポーツ」「観光」「芸能」と5つの視点から日韓両国の今後をシミュレーションして見せる。

 その後に「PART2」として“怒りを抑えられない「韓国人という病理」”の見開き記事が続く。韓国人の多くが怒りの感情を抑制できない「精神障害」だと「大韓神経精神医学会」のリポートを取りあげ、「10人に1人は治療が必要」などと断ずるのだ。これはひどい。韓国人全体に対する著しい人種差別だ。

 案の定、この号が書店に並ぶや、様々な反響があった。同誌に連載中の深沢潮氏から連載を降りたい、内田樹氏や有田芳生氏からも執筆拒否。かつて小学館から出版した『命』がベストセラーにもなった柳美里氏も在日韓国人や朝鮮半島にルーツを持つ人たちがこの広告を見たら何を感ずるかを想像してみなかったのかと批判している。他にも寄稿者や読者から抗議が寄せられているとも聞く。これにたいして「週刊ポスト編集部」名で以下のようなコメントが発表された

週刊ポスト9月13日号掲載の特集『韓国なんて要らない!』は、混迷する日韓関係について様々な観点からシュミレーションしたものですが、多くのご意見、ご批判をいただきました。なかでも『怒りを抑えられない「韓国人という病理」』記事に関しては、韓国で発表・報道された論文を基にしたものとはいえ、誤解を広めかねず、配慮に欠けておりました。お詫びするとともに、他のご意見と合わせて、真摯に受け止めて参ります。

 ここには、ヘイトスピーチまがいの差別扇動に対する反省の言葉がない。事の重大さに対する認識の欠如もはなはだしい。それもあってか、その後も新聞やテレビでも「週刊ポスト問題」として話題になっているから、この号は結果的に売れるであろう。それだけに、この記事の持つ日本人の対韓感情に及ぼす影響は大きい。すでにネットでは、この特集を受けて、ネトウヨなどによる嫌韓の過激な書き込みが増えているともいう。

韓国になら、何を言ってもいいかのような風潮

 日本の出版状況は長期低落傾向が止まらず、中でも雑誌の落ち込みは目を覆わんばかりだ。そんな中、各週刊誌も生き残りをかけて様々な暗中模索が続いている。「週刊文春」のいわゆる「文春砲」がたびたび話題になるものの、どの週刊誌も苦戦しているのだ。

 戦後の出版社系の週刊誌は、1956年に新潮社から「週刊新潮」が創刊されてからはじまる。その後、1958年に集英社から「週刊明星」が、1959年には、テレビの急速な普及に合わせて、文芸春秋社から「週刊文春」が、講談社から「週刊現代」が、平凡出版(現マガジンハウス)から「週刊平凡」が創刊されるなど週刊誌ブームが起こる。出版社系の週刊誌は、新聞社系のようなニュースソースが限られるため、スキャンダリズムや新聞では書けないようなきわどい政権批判や裏情報を得意として、記者もトップ屋などと呼ばれていた時期があった。

 小学館の週刊誌創刊は1963年の「女性セブン」が最初で、「週刊ポスト」の創刊は1969年と、他社に比べるとかなり遅い。その際、講談社から「週刊現代」の元編集長をスカウトして編集長に据え、ライバル会社からの編集長引き抜きとして、その当時かなり話題になった。それに合わせて、フリーの記者も「週刊現代」から「週刊ポスト」にたくさん移動した。このようにして創刊した、他社に比べて後発の週刊誌だったが、1971年には、プロ野球の「黒い霧」と芸能界の「衝撃の告白」スクープなどにより、発行部数が全週刊誌中のトップになり、以後20年間はトップを守り続けたという実績がある。

 同日発売でライバルの「週刊現代」とは、その後も抜きつ抜かれつの競争を続けてきたが、最近では同誌に先行され

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