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韓国人は憤怒調節障害? 『ポスト』の誤りを糺す

杉田聡 帯広畜産大学名誉教授(哲学・思想史)

週刊ポスト9月13日号の特集「韓国なんて要らない」では、「怒りを抑えられない『韓国人という病理』」拡大「週刊ポスト」9月13日号の記事「怒りを抑えられない『韓国人という病理』」

 最近、各種メディアにおいて、韓国(人)に対するヘイトスピーチが目立つ。私はテレビとは無縁なため、ワイドショー等の事情には不案内だが、かなり顕著だと報じられている(朝日新聞2019年9月6日付)。

 週刊誌でも同様の傾向が感じられるが、今回騒ぎになった『週刊ポスト』(9月13日号)の特集記事を読んでみて、寒々とした気持ちになった。これは相当にタチが悪い。この記事を見ると、『週刊ポスト』は品性のみかジャーナリズムとしての資格をも欠いている、と言わざるをえない。

安倍政権への迎合

 リードを見れば、編集の姿勢が明瞭である。日韓の150年にわたる歴史を一切無視したまま、近年両国間で起きた問題と韓国の現政権とを、日本政府の立場に立って記述・指弾している。

 いわく、「韓国の『反日』が止まらない。〔韓国政府は〕徴用工問題での国際法を無視した賠償請求、……GSOMIA(……)の破棄まで一方的に決定してしまった。/いくら日本側が法と論理、正当な手続きを通じて関係を構築しようとしても、それが通じないのである」(28頁)。

 これは安倍政権の言い分をうのみにした記述である。ジャーナリズムであれば、いかに国際問題であろうと、政権の立場を相対化し、あるいは批判的に扱うことがまず期待されるが、特集記事にはそれが全く欠けている。

 実際、韓国政府は「徴用工問題での国際法を無視」などしていないし(個人に賠償請求権があることは日本政府たりとも否定できない。「河野外相こそ無礼。日韓関係を考える最低限の条件」参照)、GSOMIA(軍事情報包括保護協定)の廃棄は日本による「一方的」な経済報復を通じてなかば必然化されたものである。とすれば、「日本側が〔国際〕法と論理、正当な手続きを通じて関係を構築しようとし(た)」(同頁)などとは、とうてい言えない。だいいち、徴用工問題等を論ずる際、何より問われるべきかつての、歴史的な植民地化責任の問題が完全に棚上げされている。

「韓国人」を「日本人」とおきかえても納得できる記事

 特集記事は2つよりなる。特に問題と感じられる第2の記事は、「怒りを抑えられない『韓国人という病理』――『10人に1人は治療が必要』(大韓神経精神医学会)」と題されている。この記事の基本的問題もまた、一切の歴史的条件を無視した現象面の追求だけに終わっていることだが、そもそも基本的な誤りがこの記事にはある。

 心理学でも病理学でも同様だが、ある集団(ここでは韓国人の成人)と、ある特性・現象等(ここではこれから触れる「憤怒調節障害」)との関係を論ずる際、その集団とは別の集団(ここではあまり的確な言い方ではないが統制集団と言われることがある)の場合とを、比較・検討しなければならない。それがなければ、問題の特性が当の集団に固有のものだと判断することはできない。

 つまり今回の第2の記事は、韓国人について「怒りを抑えられない」、「10人に1人は治療が必要」などと記しているが、統制集団(例えば日本人)との比較がなされていないため、問題の特性が韓国人に特有かどうかは分からない。私にはむしろ、記事における「韓国人」を「日本人」とおきかえたとしても――「10人に1人」といった細部についてはともあれ――何ら問題なく読め、かつ納得しうる。

 なるほど韓国人と日本人とでは、この150年の歴史的経験は決定的に異なる。韓国は日本によって「併合」され、民族固有の文化(そこには固有の姓名・言語まで含まれる)を根こそぎにされてきた。「戦後」――朝鮮半島の人にとっては「光復」(解放)後――も、朝鮮は厳しい分断にさらされ、一方日本は「朝鮮戦争」特需によって経済発展の基礎を築いた。そして日本人は、「併合」後はもちろん、それ以前から朝鮮人に対する根づよい差別意識を有し、現代でもおそらくこれを払拭できていない。そのように、日韓両国人の歴史的経験は非常に異なる(後述のようにこの事実も重要である)。

 だが一方で、韓国人も日本人もともに、現代社会特有の条件下におかれている。現代人は、複雑化した現代の状況下で個性を埋没させ(哲学者はこれを「疎外」という言葉で表現してきた)、ネット環境以外の場での生きた結びつきをしばしば欠き、これを通じて、総じて人が有する攻撃性・暴力性を他者に侵犯的な形で発散させる傾向を有している。

 他方で近年のグローバリゼーションの流れから「非正規雇用」者が政策的に増やされ、社会の分断が促進され、一方で子どもたち・青年層まで競争的な教育環境下におかれて「学(校)歴社会」の病理にさらされる等々の点で、日韓は非常に似た状況下にある。

 そしてそのようにして蓄積された怒りや攻撃性は、SNSを始めとする現代特有の環境――ネット環境――を通じて、時には全く匿名のまま、特定の人たち、あるいは特定の集団に属する人たちに、容易に向けられるようになった。

 そうだとすれば、『週刊ポスト』記事が言う、「過激に怒りを露わにする……『憤怒調節障害』(間欠性爆発性障害)」(36頁)は、韓国人特有の現象だと言うことはできない。それは日本人にも同様に見られるし、そればかりか近年の右派、歴史修正主義者たちの行動こそ、まさに同「障害」の典型例のように私には思われる(後述)。

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筆者

杉田聡

杉田聡(すぎた・さとし) 帯広畜産大学名誉教授(哲学・思想史)

1953年生まれ。帯広畜産大学名誉教授(哲学・思想史)。著書に、『福沢諭吉と帝国主義イデオロギー』(花伝社)、『逃げられない性犯罪被害者——無謀な最高裁判決』(編著、青弓社)、『レイプの政治学——レイプ神話と「性=人格原則」』(明石書店)、『AV神話——アダルトビデオをまねてはいけない』(大月書店)、『男権主義的セクシュアリティ——ポルノ・買売春擁護論批判』(青木書店)、『天は人の下に人を造る——「福沢諭吉神話」を超えて』(インパクト出版会)、『カント哲学と現代——疎外・啓蒙・正義・環境・ジェンダー』(行路社)、『「3・11」後の技術と人間——技術的理性への問い』(世界思想社)、『「買い物難民」をなくせ!——消える商店街、孤立する高齢者』(中公新書ラクレ)、など。

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