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映画「蜜蜂と遠雷」の大きな魅力と少しの限界

映像化不可能のW受賞作に挑んだ豪華キャスト「音にできない文章を音にする」

市川速水 朝日新聞編集委員

嫉妬や怒りさえ覚える演奏

拡大直木賞に続いて本屋大賞を受賞し、喜びの挨拶をする恩田陸さん=2017年4月、東京都内
 重要なキーマン、謎の天才少年・風間塵(鈴鹿央士)が奏でる音について、原作では、審査員もコンテストのライバルも啞然としてしまうほどの「かつて聞いたことがない、不思議で魅力的で、嫉妬や怒りさえ覚える演奏」というニュアンスで描かれているが、世の中にはそんなピアノの音はおそらく存在しない。

 さらに、栄伝亜夜(松岡茉優)が、かつての失踪事件や不調で心に闇を抱え、それを乗り越え、大観衆の前に堂々と立つまでの心の動き、動揺や自信を投影する演奏はどう表現すべきなのか。

 また、どんなジャンルの曲も完璧で、最初から最後まで優勝候補の筆頭で居続けるマサル・カルロス・レヴィ・アナトール(森崎ウィン)の演奏はどんな水準であるべきなのか。

 もう一人の重要な役柄、サラリーマンとして「生活の中に染み渡る音楽」を表現しようと努力を続ける髙島明石(松坂桃李)の落ちついた味わいはどう出せるのか。

 何よりも、単行本500ページ超に及ぶ原作を2時間に映像化しようとすれば、コンテストを通じたそれぞれの成長や気持ちの移ろいを表す心のひだひだの部分を大幅にカットする必要がある。

 とどめに指摘するとすれば、コンクールの演奏者や上位入賞者は、あくまで「これから世界に羽ばたいていく若手有望株」なのだから、超一流の演奏はかえっておかしい。良い意味で「中途半端な出来」でなければ現実味がない。

 試写を見ながら、「やっぱり仕方ないな」と「これはすごい」という二つの思いが数分ごとに交錯した。

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筆者

市川速水

市川速水(いちかわ・はやみ) 朝日新聞編集委員

1960年生まれ。一橋大学法学部卒。東京社会部、香港返還(1997年)時の香港特派員。ソウル支局長時代は北朝鮮の核疑惑をめぐる6者協議を取材。中国総局長(北京)時代には習近平国家主席(当時副主席)と会見。2016年9月から現職。著書に「皇室報道」、対談集「朝日vs.産経 ソウル発」(いずれも朝日新聞社)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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