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地味にスゴい、三鷹には「目利き」劇場がある

若手劇団の背中を押し、たんたんと20年

山口宏子 朝日新聞記者

劇場セレクションから受賞者続々

三鷹市芸術文化センター三鷹市芸術文化センターの外観=東京都三鷹市上連雀

 新宿駅から中央線で三鷹駅へ、そこからバスか徒歩で南へ1・3キロ。「三鷹市芸術文化センター」は、東京の劇場としては、交通至便とはいえない場所にある。中小二つのホールと会議室などを備えた、普通の公共施設だ。

 だが、一見地味なこの劇場、実はすごい「目利き」である。

 ここでは毎年、若手を中心に、「これから」という演劇集団を招く、「MITAKA “Next” Selection」を開催している。下北沢でも渋谷でもなく、新宿でも池袋でもない、三鷹からの発信。それが今年、20回の節目を迎えた。

 特に「20年」をうたうこともなく、「 “Next” Selection」は例年通り、たんたんと始まったが、その歩みは充実している。参加した作り手からは、演劇界の芥川賞とされる岸田國士戯曲賞、芸術選奨文部科学大臣新人賞、紀伊国屋演劇賞などの受賞者が続々と生まれ、近年の演劇界の中核を支える多くの才能が、三鷹経由ではばたいているのだ。

 例えば2004年に参加した3団体。「ONEOR8(ワン・オワ・エイト)」で劇作・演出を担当する田村孝裕(1976年生まれ)は、劇団活動の一方で、藤山直美、高畑淳子、中井貴一らスター俳優が主演する大規模な舞台の脚本・演出を次々と依頼されている実力派。「ポツドール」を主宰する三浦大輔(75年生まれ)は、人間の赤裸々な欲望を描いて評価が高く、06年に『愛の渦』で岸田賞を受賞。松坂桃李主演の映画『娼年』(18年)の脚本・監督など映像でも活躍する。

 04年に岸田賞を受賞した「ペンギンプルペイルパイルズ」主宰の倉持裕(72年生まれ)も、多くの舞台を作・演出。14年『わたしを離さないで』(蜷川幸雄演出)の脚本や19年『神の子どもたちはみな踊る』(村上春樹原作)の演出、劇団☆新感線への戯曲書き下ろしなど、多方面で力を発揮している。

岸田賞作家、高校生と

三鷹市芸術文化センター「ままごと」の『わが星』初演の舞台=青木司氏撮影

三鷹市芸術文化センター柴幸男
 再演を繰り返す人気作となった劇団「ままごと」の『わが星』は、09年の「“Next” Selection」が初演だった。星の誕生と人の生命とを重ね合わせて描いた、スケールが大きく、詩的な作品だ。作・演出した柴幸男(82年生まれ)は、この戯曲で岸田賞を獲得した。

 柴はその後も、火星への移住が進む未来の地球を舞台にした『わたしの星』(14、17年)を高校生といっしょに作るなど、三鷹と深く関わっている。

三鷹市芸術文化センター柴幸男が高校生と作った舞台『わたしの星』=2014年、青木司氏撮影

 12年も、にぎやかだった。藤田貴大(85年生まれ)の「マームとジプシー」、ノゾエ征爾(75年生まれ)の「はえぎわ」と、偶然、その年の岸田賞を受けた劇作家ふたりが率いる集団がそろって登場した。もう一つの参加団体は「モナカ興業」。主宰の森新太郎(76年生まれ)は、いま最も活躍している演出家の一人だ。各劇場から引っ張りだこで、若くして読売演劇大賞も受賞した逸材。最新作のシェークスピア悲劇「ハムレット」(菊池風磨主演)は現在、10月まで東京と大阪で上演されている。 

三鷹市芸術文化センター(左から)藤田貴大、ノゾエ征爾、森新太郎
 このほか、松井周(72年生まれ)、蓬萊竜太(76年生まれ)、福原充則(75年生まれ)といった岸田賞作家や、鶴屋南北戯曲賞や紀伊国屋演劇賞など多くの栄誉に輝く「イキウメ」の前川知大(74年生まれ)らも「“Next” Selection」の参加者。17年に「風琴工房」が上演した『アンネの日』では、作・演出の詩森ろばが芸術選奨文部科学大臣新人賞に選ばれた。

多彩な才能引き寄せる、三つの特徴

 「“Next” Selection」には大きな特徴が三つある。

 ①伸び盛りの劇団や演劇人にセンター内の劇場「星のホール」(最大250席)という自由な創作の場を提供する。

 ②広報など劇団単独では手が回りにくい部分を劇場が支え、「裏方」を応援する。

 ③公演期間をたっぷりとる。

 特に、③は大胆だ。一般的に若手劇団の公演期間は短く、数日で終わるケースも少なくない。だが、三鷹では週末を2回挟んで10日以上確保する。それによって、コアなファンだけでなく幅広い観客や関係者の目に触れる機会が増え、劇団の飛躍につながる。

 この催しを企画し、実行してきたのは、劇場を運営する公益財団法人「三鷹市スポーツと文化財団」の職員、森元隆樹さん(55)。公務員に近い、勤め人である。

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