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胸にしみ入るミュージカル的演出

*いまひとつ、『帰れない二人』を特徴づけているのは、もとよりジャ・ジャンクーのトレードマークであるミュージカル的要素、すなわち音楽とダンスだ。なかんずく、オープニングとチャオの発砲シーン直後に流れる、サリー・イップの歌「浅酔一生」が胸にしみ入るような素晴らしさだ。周知のように、“香港ノワール”『狼/男たちの挽歌・最終章』(ジョン・ウー監督、1989)の主題曲だが、この曲は、ジャによれば「江湖の心情を表す曲のひとつ」であり、彼はセミ・ドキュメンタリーの傑作、『四川のうた』(2008)でも同曲をBGMに使っている。

 また冒頭まもなくのカラオケバーの場面で流れる、やはりサリー・イップのやるせない「瀟酒走一回」にも聴き惚れるが、ジャ・ジャンクーは偏愛する彼女の歌を、本作や前記『四川のうた』以外にも、『一瞬の夢』(1997)、『プラットホーム』(2000)、『山河ノスタルジア』(2015)でも使っている。さらに「第一部」のディスコのシーンで流れ、それに合わせてチャオとビンが溌溂と踊るヴィレッジ・ピープルの「Y.M.C.A」――日本でも「YOUNGMAN(Y.M.C.A)」の曲名で西城秀樹がカバーして

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筆者

藤崎康

藤崎康(ふじさき・こう) 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

東京都生まれ。映画評論家、文芸評論家。1983年、慶応義塾大学フランス文学科大学院博士課程修了。著書に『戦争の映画史――恐怖と快楽のフィルム学』(朝日選書)など。現在『クロード・シャブロル論』(仮題)を準備中。熱狂的なスロージョガ―、かつ草テニスプレーヤー。わが人生のべスト3(順不同)は邦画が、山中貞雄『丹下左膳余話 百万両の壺』、江崎実生『逢いたくて逢いたくて』、黒沢清『叫』、洋画がジョン・フォード『長い灰色の線』、クロード・シャブロル『野獣死すべし』、シルベスター・スタローン『ランボー 最後の戦場』(いずれも順不同)

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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