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 去年のベネチア国際映画祭は、『ROMA/ローマ』で金獅子賞をとったアルフォンソ・キュアロン監督を始めとして、コーエン兄弟、マイク・リー、ジャック・オーディヤール、ヨルゴス・ランティモス、ネメシュ・ラースローなどカンヌ並みに巨匠監督を揃えた。今年のコンペはそれに比べると、一見してずいぶん地味に見えた。しかし21本全部を見ると、すべての作品が何らかの新しさを追及したり、問題提起をしたりしているものばかりで、今年で8年目を迎える映画祭ディレクターのアルベルト・バルベラらしい持ち味が出ていると思った。

 去年はネットフリックス作品が3本、アマゾン作品が2本コンペに入り、うちネットフリックス2本とアマゾンの1本が受賞したことも話題になった。つまり国際映画祭も配信系の時代が訪れたと感じさせた。カンヌがフランス国内で劇場公開のない作品を排除したこともあって、ベネチアの開かれた方針が際立った。ところが今年のコンペ出品はネットフリックス2本のみで配信系の受賞はゼロ。去年の配信系の席巻は何だったのかと感じさせた。

記者会見のアルベルト・バルベラ(右)拡大映画祭ディレクターのアルベルト・バルベラ(右)=撮影・筆者

 アルベルト・バルベラはカタログの前文において、フランスのヌーヴェル・ヴァーグの父と言われる映画評論家、アンドレ・バザンの「不純な映画のために」という文章を挙げながら、今年の映画祭を特徴づけるのは「どこに向かうかわからずに自由で冒険に満ちた旅に出る決意」を持つ映画だと述べる。例年、ベネチアはとても一人の人間が選んだとは思えないほど何でもありのセレクションを見せるが、今年はその傾向が強まったように思えた。

 開催初日の記者会見でバルベラは女性監督作品が2本しかないことを指摘されると、「監督の性別では選んでいない。女性監督の映画が少ないと批判するのは馬鹿げている。あくまで映画としての質の高さを基準にしている。しかし誰が監督したかにかかわらず、今年は女性を描いた映画が多いのは事実」と述べた。


筆者

古賀太

古賀太(こが・ふとし) 日本大学芸術学部映画学科教授(映画史、映像/アートマネジメント)

1961年生まれ。国際交流基金勤務後、朝日新聞社の文化事業部企画委員や文化部記者を経て、2009年より日本大学芸術学部映画学科教授。専門は映画史と映画ビジネス。著書に『美術展の不都合な真実』(新潮新書)、『永遠の映画大国 イタリア名画120年史』(集英社新書)、訳書に『魔術師メリエス──映画の世紀を開いたわが祖父の生涯』(マドレーヌ・マルテット=メリエス著、フィルムアート社)など。個人ブログ「そして、人生も映画も続く」をほぼ毎日更新中。http://images2.cocolog-nifty.com/

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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