青木るえか(あおき・るえか) エッセイスト
1962年、東京生まれ東京育ち。エッセイスト。女子美術大学卒業。25歳から2年に1回引っ越しをする人生となる。現在は福岡在住。広島で出会ったホルモン天ぷらに耽溺中。とくに血肝のファン。著書に『定年がやってくる――妻の本音と夫の心得』(ちくま新書)、『主婦でスミマセン』(角川文庫)、『猫の品格』(文春新書)、『OSKを見にいけ!』(青弓社)など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
『なつぞら』がはじまった時、「もしかしてこれは悪くないのかもしれない」と思ってしまったのだ。
というのも、その前の『まんぷく』。これがひさびさに、私の感動のツボを突いてきた朝ドラで、はじまって2ヶ月ぐらいはずっと、ふつうに明るい場面でも何かジーンとしては涙をこぼしたりしていた。これが終わる時は、大団円でみんなが幸せな笑顔であふれる中、いろいろなことを思い出してまたダーダー泣いてしまうにちがいない。そしてまんぷくロスになるのがイヤだから、いっそもう見ないことにしてしまおうか、とか思ってたぐらいなのだ。
しかし。見ないことにしないでも、見ないようになってしまった。なんか、思ってたのとは別な方向に行ってしまって。
何が「別の方向」なのかを説明すると、まんぷくの主人公夫婦は、ふたりの愛情と、まわりの人たちのあたたかさによって、大きな仕事(インスタントラーメンとカップラーメンの開発)を成し遂げる。でも人生というものは人の数だけあり、そして生涯には限りがある。まんぷく夫婦の人生をつくりあげるのは、まんぷく夫婦のまわりの人びとのもっとささやかな人生が静かな雪のように降り積もってできあがったものだ。
その、雪の一片を手のひらに受けると、キラキラと雪の結晶が見えてあっという間に溶ける、そんなふうに、萬平さんと福ちゃんのまわりの「良い人たち」が浮かんでは消える、あたたかく、じーんとするようなドラマが紡がれるのかと。……しかし、『まんぷく』はいつのまにか(萬平さんがダネイホン製作しはじめたあたりからか)、ただガチャガチャと「ちょっと困った萬平さん」「いつもすっとんきょうに元気な福ちゃん」「明るく楽しいまわりの人たち」が不死身のロボットのように泣いたり笑ったりしながら終わっちゃった。なんの風情もない。
別に、すべてのドラマに風情なんか求めないけどさ、『まんぷく』は風情たっぷりに始まったんだもん。登場人物の設定とか、すごく「いい感じに文学的」だったもんで、それならそういう話かと思うじゃないですか。なのにどんどん風情が失われて、登場人物がすべった転んだばっかりになったから私は落胆したわけですよ!
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