メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

「なつぞら」、広瀬すずファッションショーの無念

矢部万紀子 コラムニスト

「広瀬すず✖︎山口智子」の仕掛けが分かれ道

 で、ツラツラ考えたのだが、「広瀬すず✖︎山口智子」という後半の仕掛けが分かれ道になったと思う。

 「なつぞら」は朝ドラ100作目というお祭りであり、盛り上げる材料として歴代の朝ドラヒロインが何人も登場した。前編では「おしん」の小林綾子さんが話題になったが、後半の目玉が山口さんだったろう。朝ドラ(「純ちゃんの応援歌」)後、木村拓哉さんとの月9「ロングバケーション」で一斉を風靡した山口さんだが、最近はあまりドラマに出ていなかった。だから制作サイドも張り切ったはずだ。

 山口さんに与えられたのは、元伝説のダンサー・岸川亜矢美という役だった。なつの兄・咲太郎(岡田将生)を育てた「お母ちゃん」で、今はおでん屋をしているという設定。東洋動画に入社が決まったなつは、その2階に住む。そこには亜矢美の衣装がたくさん置いてある。ということになっていた。

山口智子さん=東京・井の頭公園、家老芳美撮影 2015年拡大元ダンサーで、新宿のおでん屋さん役の山口智子さん=2015年、撮影・家老芳美

 時は昭和31年10月とナレーションが入ったから、「もはや『戦後』ではない」の経済白書の年だ。そこまで復興している日本だとしても、亜矢美の衣装が3畳の部屋にびっちり、軽い目測で100着近くある。これは多過ぎやしないだろうか、と思う。同時にきっと山口さんだからの100着だろうな、と思う。

 だって山口さん、背が高くて堂々としていて、どんな服でも似合う。だから、ただのおでん屋の女将さんにはしたくない。派手な衣装が似合う、カッコいいおでん屋さんにしよう。そう思う制作者の気持ち、わからなくはない。

 その上、ヒロインは広瀬さんだ。背は小さいが、顔もすごく小さくて、どんな服でも似合うのは山口さんと同じだ。となれば、なつをおでん屋に住まわせて、衣装の中から服を選ばせ、通勤させることにしよう。勝手に推測したが、あながち間違ってはいないと思う。

 そんなわけで通勤初日、なつは赤いノースリーブのニットに黄色いカーディガンを着て幅広のヘアバンドをしていた。前日までは、茶色いチェックのシャツに三つ編み。十勝から出てきた子が一転、都会の女の子になる。これが現実なら「馬子にも衣装」感が出るはずだが、広瀬さんだからストンとハマる。

 2日目は白い花柄の入った黄色いジャケット。以後、「レトロかつやや派手め」を基本に、なつの出勤ファッションショーが連日繰り広げられる。一緒に選ぶのは亜矢美で、その亜矢美が真っ赤なジャケットに花柄スカート、髪には真っ赤な水玉スカーフという出で立ちなのだ。こんな衣装を着こなせる人、そうはいない。


筆者

矢部万紀子

矢部万紀子(やべ・まきこ) コラムニスト

1961年生まれ。83年、朝日新聞社に入社。宇都宮支局、学芸部を経て、週刊誌「アエラ」の創刊メンバーに。その後、経済部、「週刊朝日」などで記者をし、「週刊朝日」副編集長、「アエラ」編集長代理、書籍編集部長などをつとめる。「週刊朝日」時代に担当したコラムが松本人志著『遺書』『松本』となり、ミリオンセラーになる。2011年4月、いきいき株式会社(現「株式会社ハルメク」)に入社、同年6月から2017年7月まで、50代からの女性のための月刊生活情報誌「いきいき」(現「ハルメク」)編集長をつとめた後、退社、フリーランスに。著書に『美智子さまという奇跡』(幻冬舎新書)、『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』(ちくま新書)。最新刊に『雅子さまの笑顔――生きづらさを超えて』(幻冬舎新書)

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

矢部万紀子の記事

もっと見る