勝部元気(かつべ・げんき) コラムニスト・社会起業家
1983年、東京都生まれ。民間企業の経営企画部門や経理財務部門等で部門トップを歴任した後に現職。現代の新しい社会問題を「言語化」することを得意とし、ジェンダー、働き方、少子非婚化、教育、ネット心理等の分野を主に扱う。著書に『恋愛氷河期』(扶桑社)。株式会社リプロエージェント代表取締役、市民団体パリテコミュニティーズ代表理事。所有する資格数は71個。公式サイトはこちら
本物の良心的リーダーへの脱皮を期待したい
ヤフーがファッションECサイト「ZOZOTOWN」を運営する株式会社ZOZOを買収し、ZOZOの創業社長・前澤友作氏も退任および株式の大量売却をしてZOZOからイグジットしたことが、世間を大きく驚かせました。
前澤氏と言えば、「月旅行」「高額な絵画の収集」「Twitter1億円お年玉企画」「女優・剛力彩芽氏との交際」「ZOZOスーツ」「ZOZO離れ」等々、公私にわたりこれまで様々な言動や行動で世間の注目を浴びてきただけに、批判的な言説も数多く見られた人物かと思います。
中には「出る杭は打て」とばかりの言いがかりに近い非難に加えて、ゴシップやフェイクニュースの標的になってしまった面があり、同情する部分も多くあります。ですが、前澤氏が批判にさらされるのは決してそれだけではありません。
以前、1億円お年玉企画の際に「論座」に寄稿した記事『ZOZO「前澤ポエム」は優しい顔で権力に無自覚』でも、“ポエム”のように夢を語りながら、現実の問題を直視しているようには見えない点が批判を受けて当然だと書きました。このように、前澤氏の語る雄大なビジョンと彼が行っている現実のビジネスの間には様々なギャップが感じられます。
つまり、「良心的な資本家」というイメージの中途半端さが、批判を招いている部分もあると思うのです。
たとえば、2007年、株式会社ZOZOの前身「スタートトゥデイ」が東証マザーズに上場した時に、前澤氏は役員の白いTシャツに缶のスプレーで「NO WAR」と描くパフォーマンスを行いました。前澤氏は、「9.11テロをきっかけに、僕の夢は世界平和になった」と述べており、その想いを旧態依然のスタイルに縛られないやり方で披露したことは、大変素晴らしいと思います。
ですが、ZOZOは「NO WAR」という未来に向けて、何か具体的なプロジェクトを行ってきたのでしょうか? ZOZOの事業を端から端まで詳しく存じ上げているわけではありませんが、どうもその崇高なビジョンと、自社のビジネスの間を繋ごうとする努力が、おそらく外部にいる人間にはあまり伝わっていないように感じるのです。
それに対して、「平和×ファッション」で私が真っ先に思い浮かべたのは、アフリカ・コンゴの「サプール」たちです。長い内戦を経て平和の大切さを実感した彼らは、「武器を捨て、エレガントなファッションを身にまとう」という考えのもと、ド派手なファッションに身を包み、反戦の大切さを人々に伝える活動をしています。
サプールの存在は近年日本のメディアでも取り上げられることが増えているようですが、貧しいながらも高貴さを醸し出す彼らの姿勢を「カッコ良い」と感じた人は少なくないことでしょう。
「世界中をカッコよく、世界中に笑顔を。」というのがZOZOの企業理念ですが、貧しいサプールたちの活動のほうが、その想いを強く感じるのはきっと私だけではないはずです。たとえば、「TOKYO SAPEUR COLLECTION」のようなイベントを開催する等、ZOZOも自身のビジネスにもっと「NO WAR」のスピリットを絡めたプロジェクトを大々的にやって欲しかったと個人的には思います。
論座ではこんな記事も人気です。もう読みましたか?