本物の良心的リーダーへの脱皮を期待したい
2019年10月04日
ヤフーがファッションECサイト「ZOZOTOWN」を運営する株式会社ZOZOを買収し、ZOZOの創業社長・前澤友作氏も退任および株式の大量売却をしてZOZOからイグジットしたことが、世間を大きく驚かせました。
中には「出る杭は打て」とばかりの言いがかりに近い非難に加えて、ゴシップやフェイクニュースの標的になってしまった面があり、同情する部分も多くあります。ですが、前澤氏が批判にさらされるのは決してそれだけではありません。
以前、1億円お年玉企画の際に「論座」に寄稿した記事『ZOZO「前澤ポエム」は優しい顔で権力に無自覚』でも、“ポエム”のように夢を語りながら、現実の問題を直視しているようには見えない点が批判を受けて当然だと書きました。このように、前澤氏の語る雄大なビジョンと彼が行っている現実のビジネスの間には様々なギャップが感じられます。
つまり、「良心的な資本家」というイメージの中途半端さが、批判を招いている部分もあると思うのです。
たとえば、2007年、株式会社ZOZOの前身「スタートトゥデイ」が東証マザーズに上場した時に、前澤氏は役員の白いTシャツに缶のスプレーで「NO WAR」と描くパフォーマンスを行いました。前澤氏は、「9.11テロをきっかけに、僕の夢は世界平和になった」と述べており、その想いを旧態依然のスタイルに縛られないやり方で披露したことは、大変素晴らしいと思います。
ですが、ZOZOは「NO WAR」という未来に向けて、何か具体的なプロジェクトを行ってきたのでしょうか? ZOZOの事業を端から端まで詳しく存じ上げているわけではありませんが、どうもその崇高なビジョンと、自社のビジネスの間を繋ごうとする努力が、おそらく外部にいる人間にはあまり伝わっていないように感じるのです。
それに対して、「平和×ファッション」で私が真っ先に思い浮かべたのは、アフリカ・コンゴの「サプール」たちです。長い内戦を経て平和の大切さを実感した彼らは、「武器を捨て、エレガントなファッションを身にまとう」という考えのもと、ド派手なファッションに身を包み、反戦の大切さを人々に伝える活動をしています。
サプールの存在は近年日本のメディアでも取り上げられることが増えているようですが、貧しいながらも高貴さを醸し出す彼らの姿勢を「カッコ良い」と感じた人は少なくないことでしょう。
「世界中をカッコよく、世界中に笑顔を。」というのがZOZOの企業理念ですが、貧しいサプールたちの活動のほうが、その想いを強く感じるのはきっと私だけではないはずです。たとえば、「TOKYO SAPEUR COLLECTION」のようなイベントを開催する等、ZOZOも自身のビジネスにもっと「NO WAR」のスピリットを絡めたプロジェクトを大々的にやって欲しかったと個人的には思います。
また、戦争や紛争が起こるのは、当然ながら経済格差や搾取が原因であることが少なくありません。
近年、世界の至るところでテロリズムや移民排斥等のヘイトクライムが出現しています。それらも資本主義の歪みがもたらした経済格差や搾取が遠因の一つであり、一部の富裕層に富が集中する傾向が続く中で、今後さらにそのような暴力が増えていくことが予想されます。ですから、「NO WAR」と叫ぶのであれば、同時に「NO EXPLOITATION(搾取)」と叫ばなければなりません。
ところが、前澤氏からは明確な「NO EXPLOITATION」の意思表示は見えません。それどころか、メディアで取り上げられる際には、そうした活動に取り組む人々とビジョンを練るのではなく、むしろ富の一極集中を招いている資本家仲間と仲良くしている姿のほうが頻繁に目に入ります。
確かに前澤氏は、「日本はもっと労働者ファーストの資本主義に変わっていくべき」「日本の最低賃金は諸外国に比べ安すぎ」とTwitter(2019年8月9日)で述べたことがあります。彼は一般的な資本家に比べるとおそらく何倍も良識ある人物なのかもしれませんが、映し出される現実の姿を見ていると、どうも「ポエム止まり」のように映ってしまうわけです。
さらに、前澤氏が格差縮小を自ら明確に推進しているわけではないと感じたこともありました。それは
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