メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

毒きのこに生まれてきたあたしのこと。

「正しく恐れる」こと、それがきのこを愛する第一歩

堀博美 きのこライター

美味しくて猛毒のきのこもあります

 食用きのこ、あるいは毒きのこ。多くの方の野生のきのこに対する認識はそんなところだと思います。

 けれど、きのこはそれだけでは語り尽くせません。日本のきのこは、名前が付いているものだけで2000〜3000種あり、まだ分かっていないものも入れると、おそらく5000〜15000種はあるだろうとされています。その中には、食毒不明のものが圧倒的に多いです。毒はないけれども不味くて食べられないきのこもあります。なお、美味しくて猛毒のきのこもありますので、味で食毒の判断は基本的に出来ません。

 先日、久しぶりに行きつけの森に行ってきました。書籍「毒きのこに生まれてきたあたしのこと。」(発行・天夢人)の執筆で、しばらくこの森に来ることが出来なかったので、ずっと行きたくてうずうずしておりました。

 気象の影響か、例年よりきのこは少ないようでしたが、ひとつ目を引くきのこがありました。

 全体的に淡い黄色をしていて、つばがあり、柄にはささくれがありました。ちょっと驚いたのは根元のつぼが淡いピンク色で、ぷっくり膨らんでいたのです。

コタマゴテングタケ(筆者撮影)
 これはテングタケの仲間だということはすぐに分かりました。テングタケの仲間には毒のものがとても多いので、多分これは毒だろうな、と思いながらも、そんなことは関係なく、そのきのこのたたずまいや謎めいた色や姿にひきこまれていきました。図鑑で調べると、コタマゴテングタケの可能性が高いのですが、つぼがピンク色にはなっていません。本当にコタマゴテングタケでいいのかなぁと思って、帰宅後ツイッターに上げてみると、つぼがピンクのコテングタケモドキの写真が、あるホームページに載っていることを教えていただきました。見てみると、私が見たのとそっくりでした。(本当は写真だけで決めるのは良くありません。特に、写真だけを見て判断して食べるのは避けるべきです)改めて「日本の毒きのこ」(長澤栄史監修、学研プラス発行)で調べてみると、コタマゴテングタケはやはりというか毒きのこでした。我ながら毒きのこの業が深いです。

 そもそも私がきのこにはまったのは、ある毒きのこがきっかけでした。

ベニテングタケ(筆者撮影)
 ベニテングタケという、赤い傘に白いいぼが点々とついた、毒きのこの代表と言わんばかりのきのこの写真が、たまたま開いたきのこ図鑑に載っていたのです。日本では岐阜より東にしか生えないとされている、このきのこを実際に直接見てみたい、という思いだけで、友人を誘って当時住んでいた京都から長野のとある高原へ行きました。今にして思えば土地勘もなく、無謀なチャレンジだったのですが、図鑑の写真の下にあった日時と地名を手がかりに探しました。半日くらいかけて、シラカバの木の下に、やっとベニテングタケを見ることが出来ました。

 写真を見て想像していたより立派で、堂々としていて、森の中でひときわ存在感がありました。「きのこってすごい……」という思いがわき起こり、いつしかそれは「このきのこの素晴らしさを伝えねば!」という思いになりました。そしてきのこのミニコミ紙を作るようになりました。今にして思えば、あれが私のきのこライターになったきっかけだと言えます。

全身真っ白の「死の天使」

 毒きのこと言ってもいろいろあって、先に述べたベニテングタケは実は食べても死ぬほどのことはないとされています。でも、神経系や胃腸系の様々な毒成分を含むので決して食べないでください。

ドクツルタケ(筆者撮影)
 一方で、例えば、ドクツルタケは全身真っ白で立ち姿に気品さえ感じますが、致命的な毒を持ちます。英名は「Death angel」。「死の天使」です。1本食べたら大柄の大人でも死ぬことがあります。しかもとても苦しんで死にます。医学の進歩により、血漿交換や肝移植などで命が助かったケースがありますが、たいへん危険なことには変わりありません。他にもシロタマゴテングタケが純白で同様の毒を持ちます。きのこ狩りに熟練していない人は、毒きのこのリスクを考えると、慣れるまでは白い野生のきのこ自体とりあえず避けるべきでしょう。

 カエンタケという毒きのこがよくマスコミなどで話題になっています。カエンタケは表面が真っ赤で指のような形で、しばしば分岐するという複雑な形のきのこです。このきのこを一躍有名にしたのは、1999年、新潟県で旅館に置いてあったカエンタケをお客がお酒に浸して食べてしまい、5人が中毒、うち1人が死亡した事例だと思います。その頃までカエンタケは稀で見かけも毒々しいので、図鑑などでは「食毒不明」となっていましたが、この事故以降に出版・再版された図鑑では「猛毒」となりました。

 さらに近年、ナラ枯れの影響で、カエンタケは神社や公園など、人里近くにも生えるようになり、人々はカエンタケを恐怖するようになりました。特に小さな子どもたちへの影響を考えて、カエンタケを見つけ次第引き抜いて回る人(土地の管理者など)もいます。本来、毒きのこはスルーして食べなければいいだけなのですが、カエンタケは触って汁がついただけでも危険なので、これは仕方のないことでしょう。

 カエンタケの例のように、毒きのこは人が食べて中毒して初めて毒だと分かるものでしたが、近年は、ミカワクロアミアシイグチのように中毒者が出るより先に分析が行われて、毒を含むと分かり、中毒者がいない毒きのこが現れるようになりました。これは中毒防止から見て喜ばしいことだと思います。

 なお、ミカワクロアミアシイグチについては、毒の致死量をはかるためにマウスに薄めた毒を与えたところ、いくら薄めても薄めてもマウスが死に続け、これ以上マウスが死ぬのはかわいそうだ、ということで実験が中止された

・・・ログインして読む
(残り:約2019文字/本文:約4424文字)