野口五郎の“繊細なやさしさ”
野口五郎の軌跡は、そうした歌謡界の転換期をそのまま体現していた。しかもそれは、デビュー時の演歌からポップスへの路線変更だけではなかった。
彼がオリコン週間シングルチャートで初めて1位を獲得したのが「甘い生活」(1974年発売)である。山上路夫による歌詞は、恋人との同棲生活を解消することになった男性の気持ちを歌ったものであった。そして続く「私鉄沿線」(1975年発売)でも、連続してオリコン週間シングルチャートで1位を記録する。やはり山上の詞で、こちらは私鉄沿線の街でかつての恋人との思い出に浸る男性の心象風景を歌っている。
これら代表曲は、野口の繊細な声質と安定した歌唱力を活かしながら、当時流行していたフォークのエッセンスを歌謡曲に取り込んだ作品と言える。それらはフォークのミュージシャンによる楽曲ではなかったが、大ヒットしたかぐや姫「神田川」(1973年発売)など日常をきめ細やかに描くフォークの世界を彷彿とさせるものだった。それもまた、歌謡界が転換期にあたって新しいトレンドに反応したひとつの動きだったと見ることができるだろう。
野口自身はギターを巧みに弾きこなし、海外の最新の音楽動向にも敏感なミュージシャン気質の持ち主でもあった。だがそれらの代表曲の印象もあり、繊細なやさしい青年、文学青年(「むさし野詩人」というシングル曲もあった)的イメージが世間に定着していた。GSからの流れで若者ファッションの定番となった長髪スタイルも、「不良」というよりは「やさしさ」を強調する要素になった。

アフリカ飢餓救援基金の目録を朝日新聞厚生文化事業団に渡す野口五郎さん=1985年
西城秀樹の“ロック的なワイルドさ”
長髪と言えば、西城秀樹もそうだった。だが、こちらはそれによってむしろ対照的に
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