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平間壮一インタビュー/上

『Indigo Tomato』で伝えたい「それぞれで良いんだ」という想い

橘涼香 演劇ライター


 「みんながHappyになれるミュージカル」を目指して、小林香作・演出、平間壮一主演で2018年5月に誕生したColoring Musical『Indigo Tomato』が、初演の大好評を受けて、11月10日~11日のいわきアリオス小劇場でのプレビュー公演を皮切りに、札幌、大阪、福岡、石川公演を経て、12月4日~10日東京グローブ座で上演される。

 『Indigo Tomato』は、自閉症スペクトラムなどの障害がある一方で、記憶や芸術面に突出した才能を持つサヴァン症候群の青年と、彼を支える弟や友人たちなど、取り巻く人々を描いた作品。海外ミュージカルの演出・訳詞を手掛け高い評価を受けている一方、オリジナルのショー作品や、ミュージカル作品の作家としても才能を発揮している小林が、その知識と経験、社会を切り取る繊細な眼差しで、ひとり一人異なる個人の多様性を認め合う心を、静かに訴えかけたオリジナル・ミュージカルとなっている。

 その作品で主演を飾ったのが平間壮一。サヴァン症候群の中でも数字や音など様々なものが、色彩や質感を持ってとらえられる「共感覚」を持った青年タカシという難役を、見事に表現して喝采を集めた。そんな平間に初演の舞台で感じたこと、カンパニーへの想い、更に今回の再演までの約一年半に踏んだ多くの舞台での経験を経た、再演への意気込みを聞いた。

自然と僕の殻を取ってくださったのかな

拡大平間壮一=岩田えり 撮影

──初演で感じられたことからお伺いしたいのですが、簡単な言葉になってしまうようで申し訳ないと思いつつ、大変難しいお役ではなかったかなと拝見しておりましたが。

 実はあまり演じているという感覚ではなかったんです。この仕事をお受けする前に一番感じたのは失礼になってはいけないということで、だからこそ自分自身がちゃんと役に向き合って理解して演じれば、どんな形であってもきっと失礼にはならないだろうと考えました。むしろ自閉症スペクトラム障害がある人は必ずこうだとか、絶対にこうなるはずだと決めつけて形から真似をするようなことをしてしまうのが、一番失礼にあたると思いましたから、何故タカシはいま怖がっているのかとか、自分のルールから外れてしまった時にテンパっているんだとか、そういう一つひとつにちゃんと向き合ったので、それは良かったのかなと思っています。ですから演じているという気持ちではなく、ただ素直に居たという気持ちです。

──タカシとして生きていた?

 そういう言葉になるのでしょうか。ただ初めて立っているかのように、舞台上にスッと居られたかも知れないとは思います。今まではやはり勉強させて頂きながらお芝居をしている、役を演じる為に舞台に立っているという感覚だったんです。自ら役の皮をかぶりにいって舞台上に居た。でもこの作品ではそれを排除できたと言うか。もしかしたら演出の小林香さんが、これまでの僕の舞台での居方を観て、そこから解き放ってくれたのかも知れないなと思います。この舞台の冒頭は、無音の中でただ俺がスッと立っている状態からはじまるんですが、その状態の時は「壮ちゃんでもいいし、タカシでも良いよ」と言ってくれたんです。「舞台の真ん中に立って、パッと目を開けるまではナチュラルなゼロで良い」と言ってもらったことで、自然と僕の殻を取ってくださったのではないかなと。

いつの間にか役者になっていたんだなと

拡大平間壮一=岩田えり 撮影

──それは初めての感覚でしたか?

 そうですね。この舞台以前はどこかしらナチュラルと言える感覚ではなかったと思います。元々お芝居をはじめるまでは、話すことが苦手だったんです。普段の生活でさえもどこか固くなっている部分があるというタイプでしたから、いざお芝居で舞台に立つとなるともっと固くなっていて。それがタカシをやってから、とても楽になりました。

──では、この作品『Indigo Tomato』のタカシ役との出会いは、主演という以上に大きなものだったのですね。

 とても大きかったです。自分を変えてくれた役柄と考えて振り返ると、『RENT』のエンジェル役なども真っ先に思い浮かびますが、やっぱり今考えると『RENT』の時には、マークが主役だし、マークが良ければ最終的には良いものになるだろうみたいな(笑)、自分自身へのプレッシャーからちょっと逃げられるところがあったんだなと。でも、この舞台は逃げようがなかったし、本当に背負ってやっていかなければいけないんだ、俺もいつの間にか役者になっていたんだな、と実感させてくれた作品でした。

◆公演情報◆
Coloring Musical 『Indigo Tomato』
福島〈プレビュー〉:11月10日(日)~11日(月) いわきアリオス小劇場
札幌:11月14日(木)~15日(金) 札幌教育文化会館大ホール
大阪:11月19日(火)~21日(木) 東大阪市文化創造館小ホール
福岡:11月26日(火) 福岡ももちパレスホール
石川:11月29日(金) 北國新聞赤羽ホール
東京:12月4日(水)~10日(火) 東京グローブ座
公式ホームページ
[スタッフ]
作・演出:小林 香
音楽:堀 倉彰
[出演]
平間壮一
長江崚行/大山真志・川久保拓司(Wキャスト)/安藤 聖
剣 幸・彩吹真央(Wキャスト)

〈平間壮一プロフィル〉
 2007年に『FROGS』で初舞台を踏み、以降多くの舞台で活躍。主な舞台出演作に、『ドン・ジュアン』、『黒白珠』、『ロミオ&ジュリエット』、『ゴースト』、『Indigo Tomato』、「劇団☆新感線『髑髏城の七人』Season月<上弦の月>」、地球ゴージャスプロデュース公演『The Love Bugs』、『RENT』など。2020年3月に、ミュージカル「ホイッスル・ダウン・ザ・ウィンド ~汚れなき瞳~」、6月には、ミュージカル『ヘアスプレー』への出演が決まっている。
平間壮一オフィシャルサイト

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筆者

橘涼香

橘涼香(たちばな・すずか) 演劇ライター

埼玉県生まれ。音楽大学ピアノ専攻出身でピアノ講師を務めながら、幼い頃からどっぷりハマっていた演劇愛を書き綴ったレビュー投稿が採用されたのをきっかけに演劇ライターに。途中今はなきパレット文庫の新人賞に引っかかり、小説書きに方向転換するも鬱病を発症して頓挫。長いブランクを経て社会復帰できたのは一重に演劇が、ライブの素晴らしさが力をくれた故。今はそんなライブ全般の楽しさ、素晴らしさを一人でも多くの方にお伝えしたい!との想いで公演レビュー、キャストインタビュー等を執筆している。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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