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手書きか、印刷か、それが問題だ

縦につながる「写本」、横に広がる「版本」、古い書物それぞれの機能と魅力

有澤知世 神戸大学人文学研究科助教

横に広がる「版本」の力

古典籍の森拡大本を刷った版木を手に取る日本画家の松平莉奈さんと国文学研究資料館のロバート キャンベル所長(右端)。右から2人目は同館の入口敦志教授、左端は筆者

古典籍の森拡大お盆に作り替えられた版木。明治に入り、再び活版印刷が主流になると板木の価値はなくなり、捨てられたものが多い。だが、絵入りの板木は鑑賞用に保存されたり、裏面を違うものに作り替えたり、再利用されたものもある

 一方、多くの本を刷れる「版本」によって、たくさんの古典籍が現在に残されている。

 日本の印刷物は、古く奈良時代のものが残っている。

 最古の印刷物は、8世紀に、滅罪と鎮護国家を願って作られた「百万塔陀羅尼(ひゃくまんとうだらに)」。陀羅尼経というお経を印刷し、百万塔の中に納めている。早い時期の印刷物にはお経などが多く、宗教的な教えを多くの人に広めるために、寺院などを中心に印刷技術が発達したことが分かる。

 この頃の印刷は、木製や銅製の活字を使ったものが中心だった。だが、印刷技術が急激に発達した江戸時代の中頃から、一枚の板に文章も絵も入れることのできる「製版印刷」が盛んになる。

 製版印刷とは、板木に彫られた凹凸を墨で刷るもので、毎度活字を組み直す必要がある活版印刷とは異なり、一度板木を作ると、凹凸がすり減って読めなくなるまで、印刷物を生み出すことができる。つまり、板木を所有していることが、利益を生み出すことと結びついたのだ。


筆者

有澤知世

有澤知世(ありさわ・ともよ) 神戸大学人文学研究科助教

日本文学研究者。山東京伝の営為を手掛りに近世文学を研究。同志社大学、大阪大学大学院、日本学術振興会特別研究員(PD)を経て、2017年1から21年まで国文学研究資料館特任助教。「古典インタプリタ」として文学研究と社会との架け橋になる活動をした。博士(文学)。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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