2019年10月18日
最近こんな話を聞いた。
あるところで2人の国立大学の学長が一緒になった。1人が「入試に英語民間試験を活用するという話、あれに私はどうも賛成できなくて」とぼそりと言うと、もう1人が「先生もですか。私もそうなのです」とぼそりと答えた、という。
真偽のほどはわからない。でも、まともな学長なら(まともでない学長がいるとは思いたくないが)こう語ってもおかしくない。そう思う教育関係者は少なくない。だからこの話、静かに広まり、私の耳にも届いたのだろう。
全国の大学の学長先生にお願いしたい。この話が本当なら、そして本当にこの入試改革がおかしいと思われるのなら、もう少しだけ大きな声で「これはまずい」「やめよう」とおっしゃっていただけないだろうか。
この国の近現代史を振り返ると、あとになって「実は私もおかしいと思っていたのだが、とても言えなかった」と語る元責任者や元幹部たちがいた。74年前に惨憺たる結果で終わったあの戦争を遂行した軍部や政府の幹部たちもそうだったという。最近、巨額の金品を受け取って大問題になったあの大企業や、カリスマ大物経営者が逮捕された国際的な大メーカーも、内部はそうだったのではないか。「私はおかしいと思っていた。でも言えなかった」と。
これから進もうとする入試「改革」でも、また同じことが起こらないともかぎらない。そのとき、直接の被害を受けるのは若い受験生たちだ。だからこそ、大学という知と教育を担う組織の、責任ある立場のみなさんにお願いしたい。もし、この入試「改革」に疑問や疑念をお持ちならなら、いま発言し、行動してほしい。影響力を行使してほしい。
実は、この「改革」には大きな難問が既に存在してしまっている。
それは、全国の高校生たちが、自分たちがこれから受けなければならない新しい大学入試の英語は、問題だらけだと知ってしまったことだ。
ネットで検索すれば、あれがおかしい、これも変だ、という問題点や欠点の書き込みが次から次へと見つかる。書いているのはどこの誰かわからない匿名の人間だけではない。高校や大学や予備校の先生たちが、多くは実名で書いている。そしてその先生たちが文部科学省の前や国立大学協会の前や、あるいは札幌市内に集まって反対を呼びかけたり、文科省で記者会見を開いたり、あちらこちらでシンポジウムを開いたりしている。
10月13日に東京大学で開かれたシンポジウムは、台風19号の影響で首都圏の公共交通機関がまだ十分に復旧していなかったにもかかわらず、大教室がほぼ一杯になるほど集まった。もし台風が来ていなかったら、あふれていただろう。
夏の終わり頃から、新聞やテレビ、週刊誌の報道も急増している。ほとんどが批判的なものだ。ふだんスマートフォンでしかニュースを見ない10代も、ネットを通して記事や番組を目にしたのではないか。
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