2019年10月21日
「あいちトリエンナーレ2019」の「表現の不自由展・その後」の展示が10月8日午後から再開された。同時に同展中止に抗議し、展示を見合わせていたアーティストたちも展示を再開した。14日に閉幕。ここに至るまでの関係者の努力に敬意を表する。改めて萩生田光一・文部科学相の「あいちトリエンナーレ」補助金の交付中止の決定に強く抗議する。補助金交付中止の理由は「書類の不備」だとされているが、この理由をまともに信じている人はそういないだろう。補助金交付中止の決定がどうのようになされたのかも不明な点が多いことが分かってきた。補助金交付中止は撤回されるべきである。
大村秀章・愛知県知事が「表現の不自由展」再開を言明したのは9月25日だった。NHKは26日へと日付が変わった頃に文化庁の補助金交付中止決定を報じる。26日、萩生田文科相が記者団の質問に答えるかたちで、「あいちトリエンナーレ」への補助金交付中止を表明。文化庁所管の補助金にもかかわらず、宮田亮平・文化庁長官が姿を見せることも談話を出すこともないまま現在に至っている。また補助金交付中止の決定は外部審査委員の意見聴取をせず、議事録も存在していないことが明らかになっている。10月3日には審査委員の野田邦弘・鳥取大特命教授が辞任を表明している。
いったい誰がいつどのような経緯で「あいちトリエンナーレ」への補助金交付中止を決定したのかは、報道の限りでは全く分からない。また議事録は本当にないのか、それとも隠しているのかは報道だけでは判断できない。しかし、荻生田文科相が表に立ち、宮田文化庁長官が沈黙した状態であること、外部審査委員が意見聴取をされなかったことなどを総合的に考えれば、文化庁、文科省内部で独断的に決定されたと推測してもそれほど不自然ではない。NHKの深夜の報道が事情をよく物語っているのではないだろうか。官僚が独断でできる決定ではない。政治家によってなされた決定だとみることができる。
一度交付を決めた補助金を突然に交付中止するということがこれまでにあっただろうか。これは権力の乱用というものだ。こんな権力の乱用が許されては、芸術や表現の分野に限らず政府予算がつくあらゆる分野で、権力の乱用がなされる恐れが生じる。さまざまな自治体が困惑と不安を覚えるのも無理がないことだ。通俗的な言い方で恐縮だが、一度、持たせた札束を取り上げて横っ面をひっぱたく所業だ。文科省と文化庁は、「あいちトリエンナーレ」への補助金交付中止を撤回することを強く求める。また開会中の臨時国会でも、この「暴挙」と言うべき補助金交付中止決定の経緯をぜひ追及してもらいたい。
補助金交付中止は政府による「検閲」だと非難されている。それに対して展示内容ではなく書類の不備が理由なので検閲ではないという反論も飛び交っている。検閲か否かの定義はさておく。戦前の新聞、出版物の検閲が威力を発揮したのは、新聞、出版物の発行前に差し止めたのではなく、発行後に発禁処分を出し、新聞社や出版社に経済的打撃を与えたところにあったことを指摘しておきたい。新聞、書籍発行のコストの支払いが生じているのに、それを売って利益を得ることができないという二重の負担が生じる。新聞社、出版社はこの経済的打撃を受けないように、自主規制的にならざるを得ない状態に陥る。資金面からみると発行後の発禁処分と同じことが今回の「あいちトリエンナーレ」への補助金交付中止でなされている。あらかじめの予算に組み込まれて資金を取り上げられることくらい運営側にとって怖いことはない。
ところで、今回の文化庁の補助金交付中止決定の経緯は、韓国に対する輸出規制強化の決定の経緯とよく似た経過をたどっている。韓国に対する輸出規制強化でも最初に印象に残っているのは萩生田氏だ。当時は自民党幹事長代行だった荻生田氏は参議院選挙直前の6月末、ネットテレビに出演し、韓国への輸出規制強化を唱えた。7月1日にはこの萩生田氏の唱えた韓国への輸出規制強化は、安倍首相の唱えるところとなり、実際、経産省は韓国への3品目輸出規制強化を打ち出した。韓国の徴用工問題に対する報復と受け取られても仕方がない展開だった。ネットと地上波の違いはあれ、テレビ報道が先行し実際的な措置が動き出すという流れがある。
韓国への輸出規制強化は、荻生田氏が唱える以前から、自民党内で取り沙汰されていたと東京新聞の「こちら特報部」は伝えている。それを実現させる引き金を弾いたのは荻生田氏のネットテレビでの発言ではなかったか。輸出規制強化は8月に入ると韓国をホワイト国除外へと繋がる。「あいちトリエンナーレ」の「表現の不自由展」に出品された「平和の少女像」が「日本国民の感情を傷つけるものだ」と河村たかし・名古屋市長が発言したのは、韓国のホワイト国除外が取り沙汰されている頃と時を同じくしている。河村市長は「表現の不自由展」を視察した直後に
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