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大阪万博その1 笛吹男は収容所帰りの赤色浪曲師

【1】三波春夫「世界の国からこんにちは」

前田和男 翻訳家・ノンフィクション作家

「こんにちは」の連呼。歌詞全体の5割超

拡大三波春夫「世界の国からこんにちは」 作詞:島田陽子、作曲:中村八大
 万博開催の1年ほど前からラジオやテレビ、パチンコ屋をはじめ巷でさかんに流れるようになった。能天気なまでの明るさに当時の私はとてもついていけなかったが、タコになった耳から記憶中枢に侵入、覚えたくもないのに、パチンコの玉をはじきながらついつい口ずさんでいる自分を許せなく思ったおぼえがある。なぜ許せないのか、往時は1960年代後半のベトナム反戦と大学紛争の残り火がまだくすぶっており、全共闘の残党としてその末尾に加わっていた私にとっては、万博は「フンサイ!」の対象だったからだ。そんな万博反対の私が口ずさんでしまうのだから、自分を許せないと感じると同時に、「この唄はあなどれない、用心、用心」と内心おそれたものだった。

 今から考えると、それは「こんにちは」を繰り返すサブリミナル効果だったのだろうか。6年前に万博と同じく国家の威信をかけた東京五輪のテーマソング「東京五輪音頭」(作詞:宮田隆、作曲:古賀政男)と比べてみると、サブリミナル度の違いは瞭然である。

拡大三波春夫 東京五輪音頭」 作詞:宮田隆、作曲:古賀政男
 「東京五輪音頭」は、「♪あの日ローマでながめた月が/きょうは都の空照らす/四年たったらまた会いましょと・・・」と、ストーリーがあり歌謡曲の体裁になっている。ところが、「世界の国から〜」は、「♪こんにちは こんにちは 西のくにから/こんにちは こんにちは 東のくにから/こんにちは こんにちは 世界のひとが/こんにちは こんにちは さくらの国で・・・」と「こんにちは」が連呼され、歌詞を3番まで平がなで読み下した文字数にしめる「こんにちは」の比率は297文字対165文字でなんと55.6%。これでは歌謡曲というより、社名のジングルを連発するCMソングである。国家的イベントに国民を総動員するための「ハメルンの笛」には、あきらかに「世界の国から〜」が向いているのはいうまでもない。

国民の6割超を動員

 では、いったいどれくらいの日本人が「万博の〝こんにちは〟笛」に惹かれて大阪は千里丘陵へと連れて行かれたのか。調べてみたら、これがすごい。

 3月15日~9月13日のべ183日間の総入場者数は6421万8770人、なんと国民の半数以上が

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筆者

前田和男

前田和男(まえだ・かずお) 翻訳家・ノンフィクション作家

1947年生まれ。東京大学農学部卒。翻訳家・ノンフィクション作家。著作に『選挙参謀』(太田出版)『民主党政権への伏流』(ポット出版)『男はなぜ化粧をしたがるのか』(集英社新書)『足元の革命』(新潮新書)、訳書にI・ベルイマン『ある結婚の風景』(ヘラルド出版)T・イーグルトン『悪とはなにか』(ビジネス社)など多数。路上観察学会事務局をつとめる。

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