あいちトリエンナーレ問題を「表現の自由」の将来につなげるには
2019年10月28日
文化庁が「あいちトリエンナーレ」への補助金の全額不交付を決めたことを批判して、補助金の審査委員を辞任した鳥取大学特命教授の野田邦弘さんによる論考の2回目。経緯と問題点を整理し考えた前回に続き、愛知県やアーティストらが起こしたアクションや、社会の中での芸術と公的支援のあり方を考え、将来を展望する。
「あいちトリエンナーレ2019」(8月1日~10月14日)では、その一部である「表現の不自由展・その後」(以下「不自由展」という)が、テロ予告ともとれる内容を含む多くの抗議のメール、電話、ファックスを受けて、8月4日から、一時中止を余儀なくされた。
愛知県は「あいちトリエンナーレのあり方検証委員会」を設置し、第1回会合を8月16日に開催した。
委員は
国立国際美術館館長・山梨俊夫(座長)
慶應義塾大学総合政策学部教授・上山信一(副座長)
美術館運営・管理研究者、青山学院大学客員教授・岩渕潤子
文化政策研究者、国立美術館理事・太下義之
信州大学人文学部教授・金井直
京都大学大学院法学研究科教授・曽我部真裕
の6名である。
同委員会は9月25日に「条件を整えて速やかに『不自由展』を再開すべき」と提言し、これをうけて「不自由展」および関連して展示を中止していた作品も含め、10月8日全面再開した。
一連の騒動へのマスコミの反応は大変大きなもので、テレビ、新聞、週刊誌などで取り上げられた。
アートティストや市民からの抗議活動もいち早く展開された。
展示中止が発表された8月3日には早くもTwitterにハッシュタグ「#あいちトリエンナーレを支持します」が登場し、以降の迅速な情報共有のプラットホームとなった。ネット上の署名サイトchange.orgの「文化庁は文化を殺すな:文化庁は『あいちトリエンナーレ2019』に対する補助金交付中止を撤回してください。」には現在10万を超える署名が集まっている。
これは、あいちトリエンナーレに参加している国内外のアーティストたち35組を中心とした運動体「ReFreedom_Aichi」が開始した活動である。
「ReFreedom_Aichi」は閉鎖されているすべての展示作品の再開を目指すため組織された。トリエンナーレの実行委員会の会長である大村秀章・愛知県知事が、表現の自由をアピールするためによびかけた「あいち宣言(プロトコル)」作成に協力して、草案を提出した。現在愛知県は、有識者会議でこれを検討中である。
あいちトリエンナーレ参加作家72組による「芸術祭の回復と継続、自由闊達な議論の場」を求めるステートメントも8月6日に発表され、参加作家・毒山凡太朗たちはアーティスト・ラン・スペース(アーティスト自身が独自に運営する空間)を開設した。
かつて文化庁の外部委員として関わった有識者たちの声明文「文化・芸術分野における公的資金助成外部審査員従事者等有志・賛同者」には10月21日現在1400人が名を連ねている。関係団体、関連学会、東大や東京藝大などの大学教員有志からも続々と抗議声明が続いている。筆者が理事をつとめる日本文化政策学会も10月14日に声明を発表した。
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