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私はなぜ文化庁委員を辞めたのか【下】

あいちトリエンナーレ問題を「表現の自由」の将来につなげるには

野田邦弘 横浜市立大学大学院都市社会文化研究科客員教授(創造都市論)

 文化庁が「あいちトリエンナーレ」への補助金の全額不交付を決めたことを批判して、補助金の審査委員を辞任した鳥取大学特命教授の野田邦弘さんによる論考の2回目。経緯と問題点を整理し考えた前回に続き、愛知県やアーティストらが起こしたアクションや、社会の中での芸術と公的支援のあり方を考え、将来を展望する。

迅速に動いたアーティスト、市民、愛知県

 「あいちトリエンナーレ2019」(8月1日~10月14日)では、その一部である「表現の不自由展・その後」(以下「不自由展」という)が、テロ予告ともとれる内容を含む多くの抗議のメール、電話、ファックスを受けて、8月4日から、一時中止を余儀なくされた。

 愛知県は「あいちトリエンナーレのあり方検証委員会」を設置し、第1回会合を8月16日に開催した。

 委員は
  国立国際美術館館長・山梨俊夫(座長)
  慶應義塾大学総合政策学部教授・上山信一(副座長)
  美術館運営・管理研究者、青山学院大学客員教授・岩渕潤子
  文化政策研究者、国立美術館理事・太下義之
  信州大学人文学部教授・金井直
  京都大学大学院法学研究科教授・曽我部真裕
 の6名である。

 同委員会は9月25日に「条件を整えて速やかに『不自由展』を再開すべき」と提言し、これをうけて「不自由展」および関連して展示を中止していた作品も含め、10月8日全面再開した。

あいちトリエンナーレ拡大「あいちトリエンナーレのあり方検証委員会」の会合=2019年9月17日、愛知県庁

 一連の騒動へのマスコミの反応は大変大きなもので、テレビ、新聞、週刊誌などで取り上げられた。

 アートティストや市民からの抗議活動もいち早く展開された。

 展示中止が発表された8月3日には早くもTwitterにハッシュタグ「#あいちトリエンナーレを支持します」が登場し、以降の迅速な情報共有のプラットホームとなった。ネット上の署名サイトchange.orgの「文化庁は文化を殺すな:文化庁は『あいちトリエンナーレ2019』に対する補助金交付中止を撤回してください。」には現在10万を超える署名が集まっている。

 これは、あいちトリエンナーレに参加している国内外のアーティストたち35組を中心とした運動体「ReFreedom_Aichi」が開始した活動である。

あいちトリエンナーレ拡大展示の再開を目指すプロジェクトを立ち上げたアーティストたち。(左から)高山明さん、キュンチョメのホンマエリさん、小泉明郎さん、大橋藍さん、Chim ↑ Pomの卯城竜太さん=2019年9月10日、東京都千代田区の日本外国特派員協会

 「ReFreedom_Aichi」は閉鎖されているすべての展示作品の再開を目指すため組織された。トリエンナーレの実行委員会の会長である大村秀章・愛知県知事が、表現の自由をアピールするためによびかけた「あいち宣言(プロトコル)」作成に協力して、草案を提出した。現在愛知県は、有識者会議でこれを検討中である。

 あいちトリエンナーレ参加作家72組による「芸術祭の回復と継続、自由闊達な議論の場」を求めるステートメントも8月6日に発表され、参加作家・毒山凡太朗たちはアーティスト・ラン・スペース(アーティスト自身が独自に運営する空間)を開設した。


筆者

野田邦弘

野田邦弘(のだ・くにひろ) 横浜市立大学大学院都市社会文化研究科客員教授(創造都市論)

2004年まで横浜市職員として「クリエイティブシティ・ヨコハマ」の策定や「横浜トリエンナーレ2005」など文化行政に携わる。主な著書に『文化政策の展開』、『創造都市横浜の戦略』、『文化行政−はじまり・いま・みらい』、『イベント創造の時代~自治体と市民によるアートマネジメント』、共著に『地域学入門』、『創造都市への展望』『アートがひらく地域のこれから―クリエイティビティを生かす社会へ』など。鳥取大学特命教授を務めた。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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