林瑞絵(はやし・みずえ) フリーライター、映画ジャーナリスト
フリーライター、映画ジャーナリスト。1972年、札幌市生まれ。大学卒業後、映画宣伝業を経て渡仏。現在はパリに在住し、映画、子育て、旅行、フランスの文化・社会一般について執筆する。著書に『フランス映画どこへ行く――ヌーヴェル・ヴァーグから遠く離れて』(花伝社/「キネマ旬報映画本大賞2011」で第7位)、『パリの子育て・親育て』(花伝社)がある。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
押し付けの女性像を拒否したフェミニスト
さて、『去年マリエンバートで』は1961年にベネチア映画祭の最高賞である金獅子賞に輝いた。無名女優が一夜にして世界的に名を知られるようになった瞬間だ。劇中の洗練されたシャネルのドレスの数々は、セイリグの魅力を一層引き立てた。ここで作品の成功とともに、彼女にぴったりと貼り付いたのが、「美の化身・美のアイコン」ともいうべき、神秘的かつ理想化された女性のイメージであった。
だが、素顔のセイリグはそのイメージとは全く違っていた。作品が彷彿させるイメージと当の本人の人となりが、これほどかけ離れた人も珍しい例かもしれない。現実の彼女は女優の仕事を精力的に続けながらも、女性解放運動のために堂々と声を上げた、泣く子も黙る勇敢なフェミニストであった。
60年代から70年代にかけてのフランスは、中絶禁止法の廃止を求める声とともに、女性運動が大きな盛り上がりを見せた時期に当たる。セイリグは自身のキャリアや“神秘的な美貌の女優”というイメージが損なわれることなどは全く気にせず、いや、むしろ男性が押し付けた勝手な女性像を積極的に打ち消すかのように、運動に深くコミットしていった。
さらに当時出回ったばかりのビデオカメラを手にして、
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