大友麻子(おおとも・あさこ) 編集者・ライター
1971年、東京生まれ。編集者/ライター。上総掘りという人力による深井戸掘削技術を学んでフィリピンの農村で井戸掘りに従事。のちマニラのNPOに勤務。帰国後、游学社(当時編プロ、現在は出版社)へ。若松プロダクションの映画制作にも関わってきた。現在はフリーランスとしても活動。
※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです
『主戦場』上映中止騒動から見えてくる「脳内リスク」の増殖
KAWASAKIしんゆり映画祭が、ドキュメンタリー映画『主戦場』(監督・ミキ・デザキ、配給・東風)上映取りやめを発表してから一転、映画祭最終日の11月4日に上映した。そもそもの発端は、出演者の一部から訴訟を起こされている同作の上映に、映画祭の共催である川崎市が「懸念」を示したこと。その結果、映画祭が「ボランティアや観客の安全を確保できない」という理由で上映を取りやめたことに、映画人を始め多くの市民が反対や疑問を表明した。
上映取りやめの経緯を巡ってオープンマイクイベントが催され、映画祭側が『主戦場』再上映の可能性を検討し始めると、「取りやめ決定は当然」と川崎市役所の記者クラブで記者会見を行っていた原告側が、川崎市の担当者と映画祭実行委員会代表宛ての「公開質問状」をSNSなどで拡散して再上映の動きをけん制するなど、事態は混迷した。
しかし、最終的には映画祭側が、「運営委員会が自ら選んだ作品を自らの映画祭の場で上映する」という基本に立ち返って決断、映画祭最終日の上映にこぎつけた。オープンマイクでは映画祭代表が「無様に思えるかもしれないが、目に見えない恐怖に怯えている」と語っていたが、映画祭側が怯えた目に見えない恐怖とは何か。作品が係争中であること、そして「市民の安全」を理由に上映を一度取りやめてしまったことの何が問題だったのか。
今回、同映画祭に2作品を出す予定だった若松プロダクションが、自分たちの作品上映をボイコットすることで上映中止に抗議を示し、『主戦場』再上映を呼びかけた。
若松プロはなぜ、このような行動に出たのか。そこで何を訴えようとしたのか。そして、抗議による上映ボイコットは何を引き起こしたのか。その苦渋の決断に至った経緯と顛末を聞いた。