『主戦場』上映中止騒動から見えてくる「脳内リスク」の増殖
2019年11月06日
KAWASAKIしんゆり映画祭が、ドキュメンタリー映画『主戦場』(監督・ミキ・デザキ、配給・東風)上映取りやめを発表してから一転、映画祭最終日の11月4日に上映した。そもそもの発端は、出演者の一部から訴訟を起こされている同作の上映に、映画祭の共催である川崎市が「懸念」を示したこと。その結果、映画祭が「ボランティアや観客の安全を確保できない」という理由で上映を取りやめたことに、映画人を始め多くの市民が反対や疑問を表明した。
上映取りやめの経緯を巡ってオープンマイクイベントが催され、映画祭側が『主戦場』再上映の可能性を検討し始めると、「取りやめ決定は当然」と川崎市役所の記者クラブで記者会見を行っていた原告側が、川崎市の担当者と映画祭実行委員会代表宛ての「公開質問状」をSNSなどで拡散して再上映の動きをけん制するなど、事態は混迷した。
しかし、最終的には映画祭側が、「運営委員会が自ら選んだ作品を自らの映画祭の場で上映する」という基本に立ち返って決断、映画祭最終日の上映にこぎつけた。オープンマイクでは映画祭代表が「無様に思えるかもしれないが、目に見えない恐怖に怯えている」と語っていたが、映画祭側が怯えた目に見えない恐怖とは何か。作品が係争中であること、そして「市民の安全」を理由に上映を一度取りやめてしまったことの何が問題だったのか。
今回、同映画祭に2作品を出す予定だった若松プロダクションが、自分たちの作品上映をボイコットすることで上映中止に抗議を示し、『主戦場』再上映を呼びかけた。
若松プロはなぜ、このような行動に出たのか。そこで何を訴えようとしたのか。そして、抗議による上映ボイコットは何を引き起こしたのか。その苦渋の決断に至った経緯と顛末を聞いた。
壇上の映画監督・白石和彌が力を込めた。
「新百合ヶ丘」駅前の麻生文化センター内、大会議室。11月1日夜、ここで若松プロダクションによる『止められるか、俺たちを』無料上映会が、急きょ開かれていた。上映後のティーチインでは、白石監督のほか、脚本の井上淳一、撮影の辻智彦らが、約70名の観客の前で今の思いを語った。
本来であれば、この日は16時から、すぐ近くにある川崎市アートセンターで映画祭のプログラムとして同作が上映されていたはずだった。しかし、若松プロは『主戦場』の上映中止決定に対する抗議として、同映画祭での作品上映取りやめを決断したのだ。
若松プロは、故・若松孝二監督が1965年に立ち上げた独立プロ。過激な作品を次々と世に送り出し、最後までインディーズ魂を貫いた。若松監督逝去後も、三女の尾崎宗子がプロダクションを継ぎ、昨年(2018年)、若松孝二7回忌の節目には、白石監督による先述の新作を公開した。
「(10月)25日朝、(脚本の)井上(淳一)さんからのメールで、この映画祭での『主戦場』上映中止を知りました。若松プロからも2作品(*注:白石監督『止められるか、俺たちを』のほか、若松監督『11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち』も映画祭で上映予定だった)を出す予定の映画祭。こちらだけ何事もなく上映して何事もなくトークする、なんてことはできないと直感しました」(白石)
プロデューサーでもある尾崎は、当初、上映ボイコット案に難色を示す。
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください