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子どもの貧困を描いた『八月のひかり』の衝撃

言葉の向こう側にある本当の姿

堀 由紀子 編集者・KADOKAWA

いつも空腹な子どもたち……その表現に息をのむ

『八月のひかり』拡大『八月のひかり』の著者・中島信子さん
 主人公は小学校5年生の美貴。2年生の弟の勇希と母親の3人暮らしだ。お母さんはふだんスーパーで働いているが、子どものころのけがが原因で足に痛みがあり、もっと働きたいと思いながらも満足に働けない。生活はいつもギリギリで、病気になっても病院に行くのをためらっている。

 美貴はお母さんに代わって家のことをほぼすべてこなす。買い物をしたり、掃除をしたり、洗濯をしたり。買い物といっても使えるお金は決まっているから、弟と二人で食べる焼きそばは、油を1滴だけたらし、キャベツをたくさん入れる。真夏でもエアコンは入れられないし、アイスもお菓子も買えない。

 「ねえ、僕の家は何で貧乏なの?」

 無邪気な弟は言う。美貴だって「なんでこんな家に生まれてしまったのだろう」とときどき思ってしまう。

 決して悲壮感に満ちた話ではない。美貴の健気さには心を洗われるし、勇希の天真爛漫なところもほほえましい。子どもたちを大切に思って頑張り、丁寧な生活を心がけるお母さんにはこちらが元気をもらった。物語は小さな希望を感じさせて終わる。

 だが、私は読みながら息苦しさを感じ、こみ上げてくるものを押しとどめるのに苦労した。美貴と勇希はいつだっておなかがすいているからだ。その表現に息をのむ。

 「美貴は味見をしたことがない。味見をしてしまえば全部食べてしまいそうだからだ」

 成長期の真っただ中にある子どもたちが、いつもおなかがすいている。空腹は根源的な苦しみだ。なぜ子どもたちがその渦中にいなくてはならないのか。これは小説だから、もちろん作者が考えたお話だ。

 だが、きっと遠くない現実が日本のあちこちにある。いまさら何を言っているのか、と思われるかもしれないので弁解がましく記してしまうが、私も子ども食堂やおてらおやつクラブなど、おなかがすいている子がいて、その子どもたちに手を差し伸べる動きがあることは知っている。でも子どもたちが感じている苦しさにまで思いが至っていなかった。

おてらおやつクラブが困窮家庭向けに箱詰めした食品写真説明 困窮家庭向けに箱詰めされた食品。幼い子がいる家庭用には手作りの人形も。この日は33箱用意された=6月25日、奈良県拡大奈良県のおてらおやつクラブが困窮家庭向けに箱詰めした食品や手作りの人形

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筆者

堀 由紀子

堀 由紀子(ほり・ゆきこ) 編集者・KADOKAWA

1975年、山梨県生まれ。1999年より角川書店で、主婦向けのテレビ誌「しってる?」、スポーツ誌「SPORT Yeah!」、都市情報誌「横浜ウォーカー」の編集に携わる。2012年より書籍編集に。担当した書籍は、柳田国男復刊シリーズ(角川ソフィア文庫)、黒田勝弘『隣国への足跡』、望月衣塑子『武器輸出と日本企業』、室井尚『文系学部解体』、柴田一成『とんでもなくおもしろい宇宙』など。ハードボイルド小説と自然科学系の本が好き。