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『いだてん』田畑も世話になった、子供と原稿用紙

大河ドラマが描いた/描かなかった朝日新聞社 その3

前田浩次 朝日新聞 社史編修センター長

小さな「原稿用紙」は万能のアイテム

 大河ドラマ『いだてん』の朝日新聞編輯局の場面。

 阿部サダヲ演じる田畑政治が鉛筆を走らせ、こうじゃない!とピッとはぎ、くしゃくしゃと丸めては捨てる。麻生久美子演じる酒井菊枝が、田畑の電話を受けて速記で書き取る。そこで使われていた用紙は、マス目が無いザラ紙だったことに気づいた視聴者もいらっしゃるだろう。

 朝日新聞社内ではこれを、ザラ紙の原稿用紙、「ザラ原」と呼んでいた。

「いだてん」と朝日新聞拡大「ザラ原」の束。閉じるために貼り付けた薄紙には朝日新聞の社章が印刷されていた
 紙は新聞用紙だ。新聞を輪転機で印刷する過程で、インクが着かない残り紙が生じる。それを保存しておいて、ある程度たまったら重ねてまとめ、B6判サイズに裁断し、1辺を糊付けした。

 記者はこれに、大きな文字で、1枚に3行程度の見当で原稿を書いた。

 デスクが青鉛筆で書き込みをして、ごちゃごちゃになった原稿でも、活字を拾って記事に組む係が読み取りやすいように、行間を広くとる書き方である。

 書き損じたら、その紙は捨てて、新しい紙に書き直した。線を引いて書き直すより見やすいし、当時の消しゴムでは、こすると薄い紙のザラ原は破れやすかったからだ。

 戦後、昭和30年代に「漢字電信機」が実用化された。手書き原稿を見ながら、パンチャーが文字盤をタイピングすることで、自動的に活字組みが行える機械だ。そのパンチャーがリズム良くタイプできるように、ザラ原1枚に5文字×3行で書くルールになった。

 新聞の記事はたいてい数十行になるので、記事1本につき、ザラ原は何十枚もの束になった。

 「ザラ原」の用途は、原稿を書くためだけではなかった。おやつのお裾分けを受ける皿、ミカンの皮や濡らしたタバコの吸い殻をくるむゴミ袋……多くの経験者が思い出を残しているが、先の回にも紹介した熊倉正弥『言論統制下の記者』も、次のように描写している。

 「この原稿用紙ほど用途のひろい、記者にとって切っても切れない存在はないだろう。記事を書くのはむろん第一の使用法だが、メモをとり、時間つぶしにムダ書きをし、ハナをかみ、靴をみがき、洗面所で洗った手をふくハンカチがわりとなり、机の上に湯のみから少し茶をこぼして、この原稿用紙をゾウキンがわりにして机をふき、などである」

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筆者

前田浩次

前田浩次(まえだ・こうじ) 朝日新聞 社史編修センター長

熊本県生まれ。1980年入社。クラシック音楽や論壇の担当記者、芸能紙面のデスクを経て、文化事業部門で音楽・舞台の企画にたずさわり、再び記者として文化部門で読書面担当とテレビ・ラジオ面の編集長役を務めたあと、2012年8月から現職。

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