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出版は「恥ずかしい仕事」になってしまった!?

“ポスト2020”を前に、廻ってはいけないカーブを廻った……

大槻慎二 編集者、田畑書店社主

 いったいそのとき、どんな状態に置かれているかは分からないが、ずっと何年かたって今年の夏から秋にかけての季節を振り返ったとき、いかなる思いがわれわれの頭をよぎるのだろう。

 そんなことを考えてしまうのは、少なくとも出版界に身を置く立場としては、この季節、廻ってはいけないコーナーを廻ってしまったという気がしてならないからだ。

 それが決して大仰なもの言いでないことは、偶々(たまたま)ツイッター上で出会ってしまった小田嶋隆氏の次のような言葉を置くとはっきりする。

 「出版は、恥ずかしい仕事になった。私は本気でそう思っている。立派な本を出している良心的な出版社も、一方では、クズ本を大量発行している。尊敬している編集者の多くもまた、時に、劣悪な書籍を制作している。そうしないと食っていけない。われわれはスカベンジャーなのかもしれない」(2019/8/24)

 小田嶋氏の言葉は、ツイッターに限らず目に触れれば必ず読んでしまう。ひと言でいえばファンなのだが、それにしてもこの言葉はグサリと胸を抉(えぐ)った。このツイートは「週刊ポスト」の「韓国なんて要らない」という特集がさまざまな批判に晒されている渦中に発せられたものだが、どんな文脈で出てきたのかを示すために、先行するツイートを引用する。

 「出版業は、この20年ほどの間に、人間の精神に関する屎尿(しにょう)処理業に変貌した感じだ。放送も新聞も劣化しているとは思う。メディアはどれもこれもひどいことになっている。しかし、最も邪悪なコンテンツは、もっぱら出版の世界から発信されている。同業者の顔を見たくない気持ちが日に日に強まる」()

 「雑誌の見出しや単行本のタイトルを眺めるに、うちの国の書店の店頭は、すでに観戦(原文ママ)前夜だ。もちろん書店のせいではない。書棚に他民族への憎悪を煽るコンテンツが並んでいるのは、われわれ出版業界の人間が、そういう言論を商売にすることを意図的に選び続けていることの結果だ」()

 「週刊ポスト」問題についてはここで多くを論ずるまでもない。この「論座」でも小学館のOBである児童文学者・野上暁氏からの手厳しい批判(「“断韓”「週刊ポスト」を、小学館OBが叱る!」)があるし、政権と結託して嫌韓を煽るジャーナリズムのクソさ加減は強まりこそすれ冷静な判断による業界の自浄作用は皆無だ。自浄どころか、それのどこが悪い、と開き直る厚顔さえも想像できる。

週刊ポストの特集「韓国なんて要らない」拡大「週刊ポスト」2019年9月13日号の特集「韓国なんて要らない」

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筆者

大槻慎二

大槻慎二(おおつき・しんじ) 編集者、田畑書店社主

1961年、長野県生まれ。名古屋大学文学部仏文科卒。福武書店(現ベネッセコーポレーション)で文芸雑誌「海燕」や文芸書の編集に携わった後、朝日新聞社に入社。出版局(のち朝日新聞出版)にて、「一冊の本」、「小説トリッパー」、朝日文庫の編集長を務める。2011年に退社し、現在、田畑書店社主。大阪芸術大学、奈良大学で、出版・編集と創作の講座を持つ。フリーで書籍の企画・編集も手がける。