有澤知世(ありさわ・ともよ) 神戸大学人文学研究科助教
日本文学研究者。山東京伝の営為を手掛りに近世文学を研究。同志社大学、大阪大学大学院、日本学術振興会特別研究員(PD)を経て、2017年1から21年まで国文学研究資料館特任助教。「古典インタプリタ」として文学研究と社会との架け橋になる活動をした。博士(文学)。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
装丁や形から考える本の歴史と性格
巻いたり、折ったり、貼り合わせたり……古い書物にはいろいろな形、大きさ、デザインがあります。そんな装丁の違いや、さまざまな姿によって分かる、古典籍の性格についてお伝えします。
木や竹に文字を記した木簡(もっかん)や竹簡(ちっかん)を除けば、東アジアの書物で最も早く登場したのは、巻物。私たちは「巻子本(かんすぼん)」と呼んでいる。紙を継ぎ足せばどんどん長くでき、巻くだけだから、作るのに特別な道具や技術を必要としない。単純な形態だ。
巻子本を見る時、通常は、全てを広げるのではなく、右手で見た箇所を巻き取りながら、左手で新しい箇所を開いてゆく。一度に肩幅くらいの長さしか開かないため、最後まで見るには時間がかかる。見たい箇所をパッと開くこともできないので、調べものには不便であり、巻き取りの手間があるため、読むのにある程度時間がかかる。
そこで登場したのが「折本(おりほん)」だ。これは長い紙を、山折りと谷折りを交互に繰り返すことによりジャバラ状にしたもの。今でもお経などはこの形なので、お寺などで目にする機会があると思う。
ジャバラなので目的の箇所をすぐに開くことができ、見終わった後に巻き戻す必要もない。巻子本よりも大分手軽になった。
扱いをさらに手軽にしたのが「冊子本(さっしぼん)」だ。
最初にできたのは、二つ折りにした紙の折り目の端を糊(のり)で貼り合わせ、重ねてゆく「粘葉装(でっちょうそう)」。一気に手軽で持ち運びやすくなったが、糊のところが虫に喰われやすかったり、糊をつけた部分が開きにくかったりと、不便な点はまだ残る。
そこで糸を使って綴じる装丁が登場した。
まず、紙を何枚か重ねて二つ折りにした束同士の折り目の側を糸で綴じる「列帖装(れっちょうそう)」。さらに、折り目と反対側を綴じる「袋綴(ふくろとじ)」ができる。糸を使うことで強度が増し、糸が切れても、綴じ直して簡単に修理できるようになった。
書籍は、装丁技術の発達により、より気軽で身近な存在になった。
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