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古い書物は「見た目」で語る

装丁や形から考える本の歴史と性格

有澤知世 神戸大学人文学研究科助教

格の高い本、手軽な本

 古典籍では、本の大きさと内容が結びついている場合が多い。基本的に大きな本は格が高く真面目、小さな本は手軽で柔らかい。漢詩や、特に江戸時代、多くの注釈書が作られた源氏物語や伊勢物語といった日本の古典は前者、絵本や、滑稽な読み物などの娯楽本は後者だ。

 こういった認識は江戸時代に、はっきりと存在していたようだ。

 『御存商売物(ごぞんじのしょうばいもの)』(山東京伝作・画)は、さまざまな本が、その内容や見た目などに合わせて擬人化された絵入りの読み物だ。天明2年(1782)に、江戸で刊行された。それまでは京都や大阪が文化の中心地だったが、江戸でもこのころから、新興文芸が次々出現した。流行に敏感な人たちの人気を集めつつあった新ジャンル・黄表紙である。

古典籍拡大『御存商売物』。各人物の着物に〈青〉〈黒〉など名前の一部が記されている(東京大学総合図書館蔵)

 『御存商売物』の中では、これまで江戸で愛されてきた「黒本」や「赤本」といった、昔ながらの絵本が、「青本(=黄表紙)」などの新興勢力のせいで肩身の狭い思いをしていると思いこみ、流行中の「青本」や「一枚絵」(役者絵。厳密には本ではないが、青本の仲間として描かれる)に嫌がらせをするが、わけを聞いた「唐詩選」と「源氏物語」に諭される。

 作中で、黒本・赤本・青本などという名前で呼ばれているもめ事を起こした本は、新旧の違いはあるが、いずれも「草双紙(=絵本)」というジャンル。

 一方、「唐詩選」や「源氏物語」といった真面目な古典は「物の本」と呼ばれ、格上の存在であった。雨の日にこたつの中で暇つぶしに読むような草双紙とは「格」が違い、床の間などに大切に飾られ、見台や唐机の上で読むものだ。挿絵でも、仲裁役の二人(二冊)は武士の姿で上座に、青本や黒本などは町人の姿で下座に描かれ、本としての身分が異なることを示している。当時一流のお洒落な男性として登場する青本も、「見台へのる衆はまた格別だ」と、「物の本」へ敬意をはらっている。

 『御存商売物』について、もっと深く知りたい方は、鈴木俊幸『江戸の本づくし―黄表紙で読む江戸の出版事情―』(平凡社、2011年)をご覧ください。

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筆者

有澤知世

有澤知世(ありさわ・ともよ) 神戸大学人文学研究科助教

日本文学研究者。山東京伝の営為を手掛りに近世文学を研究。同志社大学、大阪大学大学院、日本学術振興会特別研究員(PD)を経て、2017年10月から、国文学研究資料館特任助教に。「古典インタプリタ」として文学研究と社会との架け橋になる活動をした。博士(文学)。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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