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國分哲学を書店「プラトーブックス」で読み直す

松澤 隆 編集者

開店してからまだ1冊も返品したことがない

 室内や備品がいささか古くても、決して古書店ではない。また、20坪の空間に、ひそかに「建築家の技」が息づいていたとしても、それ自身は商品ではない。陳列し配置された「新刊本」が商品だ。

 「人文書もエッセイも料理本も好きな本を集めていますが、見せるためじゃありません。手にとってその本の『価値』を感じてもらえたらと。売りたい『本の価値』をどれだけ買っていただける『本の価値』にできるか。それが勝負かなと思っています」

 ここに来て気づき、買いたくなるような「空間」と「時間」の模索。開業にあたって、大手取次との交渉は考えなかった。新規店への条件の厳しさはよく知っていた。たまたま「双子のライオン堂」(港区)で大阪屋栗田(当時)担当者から書籍少額取引サービス「Foyer(ホワイエ)」を聴き、目途を立てた。

 ただしいまは、版元との直取引を増やしている。「やはり個別に一冊一冊あたらないと欲しい本はそろいません」。選書と注文は、建築事務所のスタッフと相談する。専業の東日本橋から兼業の白山に文字通り「移行する」と宣言したとき、働いていた建築士は皆、大喜びした(と聴いた瞬間、涙腺が緩みかけた)。

精選されて並ぶ、「本業」との結びつきを示す建築関連の出版物。もちろん新刊かつ商品拡大精選されて並ぶ、「本業」との結びつきを示す建築関連の出版物。もちろん新刊かつ商品=撮影・筆者

 店内にいま、約500冊。少しは「在庫」を持つが、ほとんどは店内で展開中だ。中里さんとスタッフが個別に推す新刊や関連本は複数冊並ぶけれど、多くは1点1冊。全員で月に何度か話し合いながら微調整する。驚くべきは、3月の開店からまだ1冊も返品したことがないこと。なぜなら、仕入れた本の「価値」を、どれだけ伝えていけるか、それはまだ、「ウチの課題だから」。

 兼業ゆえに営業時間もやや異色で、金・土・日曜の週3日間(月~木はお休み)、午後1時から7時までの開店。こうした「時間」の刻み方も、この「空間」で本の「価値」を磨き上げるためには必要なのだろう。

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筆者

松澤 隆

松澤 隆(まつざわ・たかし) 編集者

みすず書房で出版営業、表現研究所(現・小学館クリエイティブ)で編集全般、春秋社で書籍編集に従事し、その後フリー。企画・編集した主な書籍は、佐治晴夫『からだは星からできている』『14歳のための時間論』、小山慶太『星はまたたき物語は始まる』、鎌田浩毅『マグマという名の煩悩』、立川談志『世間はやかん』など(以上すべて春秋社刊)。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです