2019年11月27日
フランスには薬物で何度も問題を起こしても、不思議なほどキャリアに傷がつかない有名俳優がいる。子役から活躍するブノワ・マジメルだ。今年も5月のカンヌ国際映画祭で、蝶ネクタイにタキシード姿で堂々とレッドカーペットの花道を歩いた。その状況を「けしからん!」などと指差し、怒る人は誰もいない。
マジメルはカンヌで監督週間に出品されたレベッカ・ズロトヴスキ監督の『Une fille facile(尻軽娘)』(2019)に出演し、海千山千のリッチな中年美術商に扮し、枯れた大人の存在感で好演、若い2人の主演女優を引き立てた。本作は監督協会賞を受賞するなど、作品の評価も高い。
ちょうど日本ではピエール瀧の逮捕劇が報道を賑わせていた頃。日仏の俳優の扱いの差に、あらためて考えさせられるものがあった。そして現在も日本では、有名人の薬物に関する不祥事の報道が続く。出演作品の公開や配信の自粛、撮り直しや販売停止といった流れも、かなり既定路線になってきたようだ。
最近は映画に関しても「助成金取り消し」という「新技」まで登場。独立行政法人「日本芸術文化振興会」は、「国が薬物を容認しているかのような誤ったメッセージを与える恐れがあると判断した」とし、公開中だった真利子哲也監督、ピエール瀧出演の映画『宮本から君へ』に対する助成金の交付内定を取り消した。一度交付を決めた作品に、後出しジャンケンのように規定を変え決定を覆す恣意的な判断には、疑問を感じざるを得ない。
その一方、このような流れにはっきりと異を唱える人たちも増えてきた。インターネット上では、麻薬取締法違反の疑いで逮捕された女優の収録済みの大河ドラマの放送を求める署名活動も起きた。
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結局NHKは代役を立てて撮り直しをする決定をしたため、署名の要望は叶わなかった。しかし今回、署名発信者(賛同者)である公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表の田中紀子さんによると、従来、依存症問題の署名は集まりにくいが、今回は風向きが違ったという。「わずか3日で、3万人以上の署名を集めたことなど我々皆無です。時代は変わった!と、実感することができました」と綴っている。
つまり、俳優の薬物問題とそれに付随する「作品までお蔵入りにするべきか否か」について、多くの人が真剣に考えるようになってきたのだろう。そこで、ひとつの考える材料として、先述のフランス人俳優ブノワ・マジメルの例を紹介したい。
マジメルは1974年、パリ生まれ。13歳の時にオーディションに合格し、エティエンヌ・シャティリエ監督の『人生は長く静かな河』に出演した。映画は動員400万人を超える大ヒットを記録し、仏映画賞のセザール賞4部門を受賞。彼は主役の少年モモ役で、一躍国民的な人気者を博す。
その後も「子役は大成しない」というジンクスを打ち破りながら、順調にキャリアを重ねた。アンドレ・テシネ、ブノワ・ジャコ、クロード・シャブロル、オリヴィエ・ダアン、ジャン・ベッケルらの作品に出演。2001年には俳優として最高の名誉と言えるカンヌ国際映画祭主演男優賞を、ミヒャエル・ハネケ監督の『ピアニスト』で受賞した。
私生活では、ジョルジュ・サンドとミュッセの情熱的な愛の彷徨を描くディアーヌ・キュリス監督『年下のひと』で共演した女優ジュリエット・ビノシュとの年の差婚(10歳年上)が話題になったが、2003年には関係を解消している。
そして現在に至るまで、彼はブランク知らずの活躍を続けるが、実は近年、ドラッグ絡みで続けざまに逮捕されている。
まずは2014年2月、運転中の薬物使用で捕まった。この時は1200ユーロ(約14万円)の罰金刑に処されている。しかし、すぐに同年夏には、エマニュエル・ベルコ監督の『太陽のめざめ』にしっかり出演。本作はカンヌ映画祭の開幕作品に選ばれ、マジメル本人も仏映画賞のセザール賞助演男優賞を獲得した。「不祥事を起こしたのだから本人も作品も自粛」という雰囲気など一切なかった。ちなみにこの時の彼の役は、不良少年を更生させようと奮闘する教育係。「本当に教育係が必要なのは誰よ?」とツッコミどころは満載だろう。
続いて2016年3月だが、今度は相当派手にやらかした。現場は
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