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平方元基インタビュー/下

すごかったねぇではなく〝ニコッ〟となって帰って欲しい

真名子陽子 ライター、エディター


平方元基インタビュー/上

スペシャル感が小さなギフトになれば

――コンサートを創るプロセスがとても楽しそうです。

 楽しいですね~。しかも公演が1回しかないから何が起こってもそれっきり、〝ショー・マスト・ゴー・オン!〟。最初で最後のプレミアムコンサートっていう感じが良いですよね。

――そんな風に聞くと、何かが起こって欲しい!なんて思ってしまいます(笑)。

 僕も思うんですよ、それ! 自分の身に起こるのはイヤなんだけど(笑)、ゲストの二人に何か起きろって思ってます。その後、三人のMCでおもしろおかしく話してみたりとか、なんだかスペシャル感があってその方がおもしろいですよね。

――ライブの醍醐味ですね。

 それがお客さまへの小さなギフトになって持ち帰っていただけたら良いなって、物じゃないけれどね。“ニコッ”となって帰って欲しいなと思うんです。「すごかったねぇ~平方君のライブ」とか言っていただくより、“ニコッ”てなって欲しい。

――とても平方さんらしいです。

 「すごかったねぇ~」と言われるコンサートは他の方がたくさんされていますし、〝ニコッ〟ってなるほうが良いなと思うんです。

――どんなコンサートになるのか、楽しみです。

 こうめいさんの中では大体固まってきているなと感じているんですけど、ギリギリまで構想を練る方なので、こちらもギリギリ勝負なんです。それぞれ舞台の稽古などもあるので。でもそのギリギリ感がすごく楽しいですし、役ではないからある意味責任がない。ないというか、自分自身の表現になるので、こうしなければならないということがないんですよね。

――自分の好きなようにできますね。

 そう、良い意味でわがままになれるし、良いように調整していけるのはすごく楽しいです。

舞台上も舞台袖も自分のままでいれるようになった

拡大平方元基=岩田えり 撮影〈スタイリスト:鬼束香奈子、ヘアメイク:渡部圭依子〉

――お客さまの反応も舞台とはまた違いますね。

 そうですね。最近、お客さまを感じながらお芝居をするのがすごく楽しくて好きなんです。これまでは自分たちが表現していることに対して、ジャッジメントをされているというイメージがあったんです。お客さまの前で失敗したら怖いなとか思っていたんだけど、ちゃんと自分たちがやることを一生懸命やっていれば、怖いと思う必要はない。むしろ良いエネルギーをくれる方たちなのに、何でそれに気付かずフタをしてしまってたんだろうって。

――なるほど…。

 芝居をしている時に客席が見える時があるんですね。今日は精神的にも体力的にもきついなって思っていた日にお客さまと目が合ったんです。その時に、あぁ、観てくれているんだと思えたらすごくがんばれたんです。もちろん観てくださっているのはわかっているんだけど、こんなに奮い立たせてもらえるんだっていうことに気付いたんです。

――実体験として感じられたんですね。

 そうです。ありがたいことですよね。僕たちは好きでお芝居をさせてもらっているけれど、お客さまはスケジュールをやりくりして観に来てくださっているんですよね。そのお客さまの胸に飛び込むじゃないけれども、お客さまのおかげですごく自由になれたんです、ここ1年くらいかな。

――そんなふうに思えるようになって何か変わりましたか?

 舞台上も舞台袖も自分のまま素直でいられるようになったかな。もちろん役があるから舞台上ではスイッチは入るけれども、ただ自分が表現したいことをするために舞台上へ行くだけで、舞台袖にいる時も何も気負わずに、ただ表現したいことを僕はするだけ、というスタンスでいられるんです。

――いつもニュートラルでいられる?

 そう! カッコつけなきゃ、良いところを見せなきゃって、元々思わないほうなんだけど、そっちに逃げちゃうと楽なのかなって、そういう選択肢を残しているところがあったように思います。でもそういう姿はお客さまにとっては何の生産性もなく、そんなところを観に来ていないって僕だったら思う。ズブズブな精神状態だったとしても、そのまま舞台に出てそこで起きることをそのまま表現した方が喜んでくださるんだと。そういう経験もさせていただきました。なんだかすごく不思議ですよね、自分が良いと思う芝居が良いわけではない。そういう経験をしてからすごく自由になれたんです。舞台上が好き、稽古場も好き。演じることがもっともっと楽しくなってきました。

拡大平方元基=岩田えり 撮影〈スタイリスト:鬼束香奈子、ヘアメイク:渡部圭依子〉

――30代後半に向かう中、良いタイミングでその変化が来たのかもしれないですね。

 そう遠くない未来を想像した時、例えば、もうすぐ40歳になるという時に、どうするの? この世界でやりたいの? やりたくないの? っていろんなせめぎ合いがあるだろうと想像できるんです。その中でこの年齢に差し掛かって思ったのは、ある時にすべての覚悟が決まるんじゃないんだなって。39歳になったから40歳に向けてじゃあやります、やめますという覚悟が決まるんじゃなくて、ひとつずつレンガみたいに積まれていくんだなって実感しています。

――レンガと言うのは平方さんの演劇に対する覚悟ですか?

 いろんな作品や人に出会ったり、いろんな方と話したりするたびに思うんです。自分の意見はあるけれど、それが正しいわけじゃないと。いろんな意見を聞いたり話したりする中で、こういうことを僕はもっと考えなきゃいけないなとか、この方の言ってることはわかるけれど、それは僕の正義では受け取れないなとか、いろんな意見があるということを受け入れられるようになってきました。

◆公演情報◆
『平方元基 プレミアムコンサート2019』
2019年12月20日(金)めぐろパーシモンホール 大ホール
開場17:45/開演18:30(終演予定20:45)
出演:平方元基
スペシャル・ゲスト:佐藤隆紀(LE VELVETS)、平野 綾
構成・演出:菅野こうめい
音楽監督:園田 涼
演奏:ソノダオーケストラ
公式ホームページ
 
〈平方元基プロフィル〉
2008年連続ドラマ『スクラップ・ティーチャー~教師再生~』でデビュー。2010年舞台『ヘルプマン!』にて、初舞台&初主演。2011年ミュージカル『ロミオとジュリエット』ティボルト役でミュージカルデビューし、『エリザベート』『シラノ』『マイ・フェア・レディ』『王家の紋章』『スカーレット・ピンパーネル』『レディ・べス』など数々の本格ミュージカルにて重要な役を演じる。2020年3月にミュージカル『サンセット大通り』への出演が決まっている。
平方元基オフィシャルサイト

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筆者

真名子陽子

真名子陽子(まなご・ようこ) ライター、エディター

大阪生まれ。ファッションデザインの専門学校を卒業後、デザイナーやファッションショーの制作などを経て、好奇心の赴くままに職歴を重ね、現在の仕事に落ち着く。レシピ本や観光情報誌、学校案内パンフレットなどの編集に携わる一方、再びめぐりあった舞台のおもしろさを広く伝えるべく、文化・エンタメジャンルのスターファイルで、役者インタビューなどを執筆している。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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