井上威朗(いのうえ・たけお) 編集者
1971年生まれ。講談社で漫画雑誌、Web雑誌、選書、ノンフィクション書籍などの編集を経て、現在は科学書を担当。
※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです
原辰徳はモラハラをしているのか?
2019年のプロ野球もストーブリーグに突入しましたね。補強で面白いことが起きるはずもない広島カープのファンである当方は、何もすることがなくなってしまいました。
なので本業たる編集者としての勉強もしようと、「ベストセラーがいかにして生まれ、売れていくのか」を著者に教えてもらう企画を試みることにします。
ただし収録したのは東京ドーム、セ・リーグのCS(クライマックスシリーズ)ファイナルステージ第2戦。カープのCS進出を信じて買ったチケットを有効活用して、『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(新潮文庫)作者の岩崎夏海さんをお呼びしました。
――ということで巨人対阪神戦です。
岩崎 カープ、CSに出てこられなくて残念でしたね。
――数多く無残な体験を重ねているカープファンは切り替えも上手なので大丈夫です。今日はどちらかというと阪神を応援するイチ野球好きとして参りました。
岩崎 しかし、阪神はまったく点が入る気配もありません。応援団もチャンステーマひとつできませんね。
――うう、メルセデスが快投を披露、といえば聞こえがいいですが、どうにも塩試合のようになってしまいました。
岩崎 せっかくの球場ですし、景気のいい話をかっ飛ばしたいものですね。
――景気とおっしゃるなら『もしドラ』ですよ。初版発行から10年を迎え、いまなお売れ続けている理由をぜひうかがいたいんですが。
岩崎 本当にありがたいことに、文庫版が今も年で万単位も売れ続けているんです。その理由として、この10年で、皆さんの強い興味や危機感が、組織作りや新しい価値観の取り入れ方に集中してきたからなのでは、という仮説を持っています。危機感に応える書籍として、『もしドラ』を読んでいただいているのでは、と。
――続編の『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『イノベーションと企業家精神』を読んだら』(ダイヤモンド社)も、大変な痛快作ですよね。
岩崎 『もしイノ』はそれから6年後に書いたもの。われわれの社会におびただしい変化、変革が襲いかかるなかで、新しく生まれてくる価値観や問題意識を見つめねばならない、という思いが発端ですね。たとえば最近でいえば、アメリカ人の車のステイタスシンボルが、メルセデスではなくテスラに移り変わっている、とかね。
――テスラ! 注文してから納品まで、何年かかるかも分からないテスラですか!
岩崎 テスラの社長、イーロン・マスクはオタクで変わり者なことでも有名ですけれど、そうした人の会社の車がものすごく売れている。逆に対比されるのがトヨタの豊田章男社長だと思う。彼は非常におぼっちゃんながら、人間的にも「いい人」。