井上威朗(いのうえ・たけお) 編集者
1971年生まれ。講談社で漫画雑誌、Web雑誌、選書、ノンフィクション書籍などの編集を経て、現在は科学書を担当。
※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです
『栗山ノート』の栗山監督は、矛盾を内包させた人
――こうやってうかがっていると、モラハラ被害者として、怨嗟をつのらせる恐ろしさも、精神が空疎化する恐ろしさも、どちらの二極ともとりたくないものですね。
岩崎 ですよね。実はね井上さん、『もしドラ』(『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』新潮文庫)の主人公・川島みなみもモラハラの被害者なんですよ。
――そうだったんですか。
岩崎 彼女はちょっとおばかさんなので、結構大きくなるまで、自分だって頑張れば甲子園に出られると思っていたんですよね。そこまではまだいい。問題は、それを親が応援しちゃったことですよ。頑張ればいつかは出られるかもしれないと。それが、モラハラなんですよ。
――親としてはモラハラの自覚もなく、「全力で応援してるのに」と無邪気なのでしょうね。
岩崎 無邪気が正解とは限らない。やっぱり親なら、「女性はルールとして甲子園に出られない」みたいなことを、早い時点でちゃんと言うべきだったんですよ。それなのに建前であろう「夢を持つのはいいことだ」とか「子どもの夢を壊したくない」とかを突き通したことがまさに、モラハラなんです。
――親父としての自分もなかなか胸の痛い話題ですなあ。よかれと思ってやりがちなのが、モラハラなのかもしれません。まさにダークサイド・オブ・フォース。
岩崎 よくあろうとするのであれば親も、もっとフラットに現実的に接する必要がある。最近だと多くの人が、「怒ると叱るは違う」とか「怒るのは悪いが、叱るのはいい」と捉えるでしょう。でもね、僕が思うに、逆なんですよ。叱るっていうのは、モラハラそのものなので。
――おっしゃる通りだ。叱るというのは善導、何かに導いちゃうことですから。叱られる側の主体を軽んじたことになる。
岩崎 そうです。だから叱ったらだめ。怒ったほうがいいに決まってるんです。
――叱る、の悪い例でいうと、「勉強しないと、どうなるか分かってるか!」というような追い込みですよね。
岩崎 「いたずらしてもいいとでも思ってるの?」みたいな。
――「何を考えて、あなたはそういうことをするの!」も、そうですな。
岩崎 こうした叱り方を進めた結果、子どもが病んでいくと思うんです。
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