物語に心遊ばせ、三味線音楽にノリノリ、子どもの表情が変わります
2019年12月15日
「うっひゃあ!」
……と、思わず声をあげてしまいました。
12月上旬、都内某ホール。子どもにさまざまな芸能を体験させておられる団体の主催イベントで、子どもたちに浪花節を聞かせてください、というご依頼をうけての会でした。
主催者からは「お子様と親御さん50人くらいですかねー」と言われていたのに、会場に入ってみたら、前方には、お母さんに抱かれている乳児から、寝っ転がってもいいように敷かれた布の上にお座りしている幼児から小学生くらいまでのお子様たち。そしてその後ろに置かれた椅子に座る、親御さんとおぼしき方々、祖父母とおぼしき方々、一般の方々、立ち見も含め、会場ぎっちぎちに、200人くらいおられたでしょうか。
「客層、幅広すぎる……」
会の主旨からして、照準はお子様に当てます。とはいうものの、そもそも、乳児から小学生まで、「お子様」の幅が広い(泣)。それに、お客さん総数の半分を占める大人を無視するわけにもいかない。
うーむ。
こういうときにかけるネタは決めています。
「浪曲はお爺さんが青筋立ててうなるもの」
「聞いてても意味わかんない、眠くなる」
という先入観およびご意見に対抗すべく、老若男女「絶対に!」わかる物語、そして、いわゆる浪曲的イメージから「一番遠い」物語を、浪曲にしてあるのです。
「浪曲シンデレラ」
どうですか。これならお子様からご年配まで、OKでしょ?
鉄板ネタです。きっちり、古典浪曲の型にのっとって作ってある上に、筋はシンデレラですから、節に聞きほれて(笑)、あらすじが一部飛んでしまうようなことが万一あっても、追いついてこられます。
そしてさらに。
あらゆる年齢層に受ける、さまざまな種類の笑いが仕込んであるのです。
昭和世代の大人向けの笑い。女子向けの笑い。子ども向けの笑い。全世代に受ける笑い。
演じる場所や客層によって、これほど反応が多彩なネタはなく、それはすなわち、客層によって受けるポイントが違うからです。でもどの客層でも大丈夫なように作ってあります。
では、まだ言葉がわからない幼児には?
大丈夫。浪曲は、節つきの語り芸。三味線音楽がついており、音だけでも楽しめるのです。
かつて、私はこの時以上に衝撃の体験をしたことがありました。
やはり「子ども寄席」と銘打たれた会に呼ばれ、お客さんは小学生だと聞いていた。
ところが、舞台から「キャー」という声が聞こえるので、見に行ってみると、未就学児たちが、緞帳(どんちょう)にぶら下がったり舞台に上がったりして遊んでいた。
ふたをあけてみたら、その日の客は、小学生なんかほとんどいなくって、主に未就学児たちとその親御さんでした。
当時まだ若かった私はおおいに動揺しました。
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください