2020年12月22日
1.「ピーター・ドイグ展」(東京国立近代美術館)
2.「オラファー・エリアソン ときに川は橋となる」展(東京都現代美術館)
3.「横浜トリエンナーレ2020」(横浜美術館ほか)
4.「性差(ジェンダー)の日本史」展(国立歴史民俗博物館)
5.「式場隆三郎 腦室反射鏡」展(練馬区立美術館ほか)
次点:「ハマスホイとデンマーク絵画」展(東京都美術館ほか)、「STARS展:現代美術のスターたち―日本から世界へ」(森美術館)、「宮島達男 クロニクル 1995-2020」展(千葉市美術館)
話題:コロナ禍を契機とした展覧会の変容とアーティゾン美術館の開館
今年の展覧会はコロナ禍で大きな影響を受けた。2月末からほとんどの美術館・博物館が突然閉じてしまい、6月上旬まで3カ月以上休館になったからだ。
私が今年一番楽しみにしていたのは「ピーター・ドイグ展」と「オラファー・エリアソン ときに川は橋となる」展だったが、前者は2月に開けてすぐに閉じてしまい、後者は3月に開幕しなかった。結局、ともに会期を延長して6月から9~10月まで無事開かれた。
「ピーター・ドイグ展」は、改めて絵画を見る楽しさを認識させた点ですばらしかった。多くは、静かな風景の中でたたずむ孤独な人間を描いている。ヴィルヘルム・ハマスホイやエドワード・ホッパーのような、ちょっと不穏な気配が漂う。
景色は感情に歪められたものが多く、ゴーガンやゴッホやムンクを思わせる絵もあるが、どれも深い物語性にうっとりと見入ってしまう。現代美術はおよそ「物語」というものを否定する作品が多いが、彼の絵では個人の小さな心のドラマが濃厚に記されている。都会を離れてほとんど人影のない場所で1人で考えに耽る快楽のようなものが、画面から伝わってくる。
2メートル×3メートルくらいの大きな絵が多いが、会場は大きな2部屋を細かく仕切らずに使い、かつその2つに2カ所通路があって行き来を自由にした構成だった。観客一人一人の気分に従って動くことのできる雰囲気があった。後半の狭い通路に並ぶさまざまな映画にインスピレーションを受けた手書きポスターのような作品も楽しかった。『羅生門』や『HANA-BI』のような日本映画もあったが、どれも通好みの作品ばかり。
「オラファー・エリアソン ときに川は橋となる」展は、現代美術の巨匠の持つ力を見せつけた。光や闇や水や鏡を使い、観客の動きに従って作品は変化し、人間の知覚の不思議さから世界の神秘まで感じることができる。展覧会の題名でもある《ときに川は橋となる》という作品は真ん中に水が入った丸い空間があり、少しずつ水が動くとそれがライトに反射して頭上のスクリーンに12個の映像が動き始める。これまたほんの小さな動きが世界を動かす自然の摂理のよう。
2020年の新作《あなたに今起きていること、起きたこと、これから起きること》は床に3色のライトが置かれているだけなのに、人が動くことで光と影のドラマが生まれる。シンプルで奥が深く、これまでにないタイプの作品。
こちらの展覧会を1位にしてもよかったが、私にとっては彼の作品はヴェネチア・ビエンナーレなど海外でこれまで見ていたので新鮮味が薄かった。フランスのヴェルサイユ宮殿で見た高さ100メートルを超す水のインスタレーションのような野外作品も見たかった。
「横浜トリエンナーレ2020」はよく開催できたと思う。現代作家のインスタレーションが中心なだけに、オンラインでの準備は大変だったのではないか。それ以上に今回全体を取り仕切ったのは「ラクス・メディア・コレクティヴ」というインド出身のアーティスト3人組。日本のこの種の現代美術展では初の外国人ディレクターだが、これがよかった。私は「3年前のカッセル・ドクメンタみたい」と思った。
まず、日本人も外国人も有名作家はほとんどいない。これまでの横浜トリエンナーレ(横トリ)は、この5、6年に世界で話題になったアーティストを集めて日本の観客に見せるという、「教育的配慮」がどこかにあったが、今回はそれがなく、あくまで「破壊/毒性」「回復/治癒」といったテーマを中心に選んでいた。
横浜美術館の建物はカーテンのようなものに覆われている。
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