青木るえか(あおき・るえか) エッセイスト
1962年、東京生まれ東京育ち。エッセイスト。女子美術大学卒業。25歳から2年に1回引っ越しをする人生となる。現在は福岡在住。広島で出会ったホルモン天ぷらに耽溺中。とくに血肝のファン。著書に『定年がやってくる――妻の本音と夫の心得』(ちくま新書)、『主婦でスミマセン』(角川文庫)、『猫の品格』(文春新書)、『OSKを見にいけ!』(青弓社)など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
「今年はこれ!……というテレビはなかったよなー」とか思っても、じっくり思い返せば「それなりに心に残る番組」は必ずある。それが「いい残り方」なのか「イヤな残り方」なのかはまた別問題だけど、「残るだけいいじゃないか、忘れ去られるよりも」ということで、心に残った番組を5つ挙げてみたいと思います。
第5位『白い巨塔』(5月22日~26日、テレビ朝日系)
『白い巨塔』って、テレビ朝日とフジテレビだけが何回もドラマ化している(あとは映画と韓国のテレビ)。長年にわたる「白い巨塔対決」を局ぐるみでやっているのだ、誰も気づいてないが。で、ことごとくフジの完勝(田宮二郎版と唐沢寿明版)。テレ朝は佐藤慶と村上弘明が財前を演じたやつですが、まあ、ほぼ無視されてる、というより忘れられてる状態ですよ。私がテレビ朝日なら「もう白い巨塔には手を出すな。ケガするぜ」と思うところだが、開局60周年記念5夜連続で白い巨塔を叩きつけてきたテレビ朝日。乾坤一擲だったろうに(推測)、これももうすでに忘れ去られている気がする。
原作では「背の高い男」である財前五郎を、見るからにちっちゃい岡田准一が演じるのはべつにいい。でもその背の低さを払拭するかのごとく「腕は切れるが傲岸不遜」という財前の、その傲岸不遜部分を激しく誇張、特に表情でそれを表現。すごい熱演なのだが、コントでオトす前のシリアス場面みたいなことになっていた。力が入りすぎたゆえの失敗作……みたいではあったが、なんとなくずるずると連夜見てしまい、最後に思わぬ感動をしてしまった。たぶん、この戯画的に傲岸不遜な財前が、ガンで死に至る、というところからの落差が泣かすのだ。
あんなにセリフや仕草でヤリスギぐらいやりすぎてた岡田財前が、ガンで余命がわかったら、松山ケンイチ演じる里見元助教授と静かに向き合う、そのたたずまいや表情が、岡田准一の顔が好みでない私にも素敵に見えるという、思わぬ結末を迎えた。これは5夜連続じゃなくて週一で5週間だったら途中で見るのをやめてしまってラストの感動を見そびれたかもしれない。勢いが大切だ!
第4位『ラグビーワールドカップ決勝トーナメント フランスvsウェールズ』(10月20日、日本テレビ系)
今年のラグビーワールドカップの中継番組を見た感想を週刊文春で書いたところ、私史上たぶん最大の反響があった。個人的な話ですみません。
書いた内容は、選手が入ってくる時に和太鼓打ち鳴らすのとか、キックオフの時に鼓のかけ声みたいなのをやるのは恥ずかしいからやめてくれという話。そうしたら「現場では盛り上がってた」「太鼓はよかった」「よくいるんだよこういう盛り上がりに水差していい気になってるやつ」「太鼓こそ和の神髄」とかたいへんに反論がいっぱい来て、ものすごくびっくりしてしまった。
あれを恥ずかしいと思わない人がそんなにいっぱいいたのか。というか、入場時に和太鼓を打ち鳴らすというのは「安易なオリエンタリズムというかナショナリズムでイヤ」であるが、私がダサいと思わない音、たとえば非常階段(というノイズバンド)の大音響ノイズだったとしても、「選手の入場にそういう演出はいらんだろう、ことに、世界トップのスポーツの試合に」という考えに変わりはない。アナウンスだけで淡々と、ちょっとうつむき加減で出てくるのが最高にかっこいい、と思う私はもう時代遅れと言われる。
で、この決勝トーナメントのフランス対ウェールズの試合も、太鼓も鼓も両方あったが、同日、なんと初決勝トーナメントに進んだ日本と南アの試合があったもんで、力を入れるのはそっちになったのか(そっちは別局がやったのだが)、いわば裏番組のような(といっては語弊があるけれど)こちらの中継は、いい意味で力が抜けたのか、実況も解説もテキパキして聞きやすく、しかも落ち着いていてとてもよかったのである。で、フランスの、ひらめきを感じられる(素人目で見てのことですが)ラグビーが好きなこともあり、たいへん楽しめたし、記念すべき日本開催のラグビーワールドカップ、中継番組の中ではこれがいちばん良かったので忘れないようにランクインさせました。
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