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台湾発長編アニメーション『幸福路のチー』の軌跡

民族・文化を超えて広がる共感の輪

叶精二 映像研究家、亜細亜大学・大正大学・女子美術大学・東京工学院講師

日本で公開されることの意義

 1970年代以降、日本の「テレビアニメ」は台湾を含むアジア諸国の下請けによって支えられた。台湾の子供たちは、そうした日本製テレビアニメを見て育ったが、自国で長編が作られる機会が極めて少なかった。2004年、エドワード・ヤン監督が台湾初の長編アニメーション『追風』を企画し、日本との合作で進めようと試みたが結局頓挫している。本作の成功によって、受信する一方だった台湾の制作者たちの悲願がようやく成就した。

 近年、本作を含め中国・韓国などで意欲的な力作長編が相次いで制作されており、日本中心に回ってきたアジアのアニメーション事情は新たな段階へ進んだと言える。

 しかし、日本のシネコンのスクリーンは、ほぼ日米の長編アニメーションに占拠されている。「アニメ大国」を名乗るのであれば、多様な言語・文化・歴史に基づき、普遍的なテーマを扱う全世界のアニメーションに解放されるスクリーンがあってもよい。日本のヒット作とは趣の異なる成熟したシナリオや素朴な造形は、多くの観客を魅了するはずだと思った。

 まずは本作に共感する「人の輪」を広げる必要を感じた筆者は、「東京アニメアワード」長編コンペディションの一次選考委員を務めた本郷みつる監督に相談を持ちかけ、授賞式の2日後に日本公開を目的とした応援組織「拡福隊」を結成した。以降、五味洋子氏、藤津亮太氏、中村誠監督、森和美氏、小泉正人氏が加わり、SNSを中心に自主的広報活動を行ってきた。各地の映画祭や上映会、出講先などで宣伝チラシを配布し、試写会参加の呼びかけや著名な方々の感想コメント取りに奔走した。こうした長期にわたる支援活動が、少なからず日本公開の前倒しに貢献出来たのではないかと考えている。

キックオフイベントで日本公開タイトルが発表された瞬間。左端は宋欣穎監督、右端は中村誠監督。(2019年3月16日拡大キックオフイベントで日本公開タイトルが発表された瞬間。左端は宋欣穎監督、右端は中村誠監督=2019年3月16日 撮影・筆者
 2018年7月21日、「東京アニメアワード」事務局主催により、台湾文化センターにて宋監督を招いて作品上映会が開催された。11月にはフロンティアワークス(中村誠監督が所属)、竹書房の提供、クレストインターナショナルの配給による日本公開が決定した。日本公開のタイトルは、原題か英題のままという案もあったが、結局『幸福路のチー』に決定した。日本公開は同年11月24日、NHK-BS1『キャッチ!世界のトップニュース』で発表された。

宋欣穎監督。胸には「拡福隊」のバッジが。(2019年3月16日拡大宋欣穎監督。胸には「拡福隊」のバッジが=2019年3月16日 撮影・筆者
 2019年3月16日には宋監督を招いたキックオフイベントが開催された。作品の試写会と日本語タイトル・公式サイト開設の発表、そして公開前の東京・京都のイベント開催のためのクラウドファンディングの開始が報告された。宋監督は、元々「幸福路の少女」というタイトルも検討していたので、「日本版タイトルに違和感はない」と太鼓判を押していた。

 クラウドファンディングは、目標額の100万円を38万円も超える大成功を収めて終了した。支援者は145人に到達した。興味を持つ多くの人々の目に触れる機会が増えたという点でも大きな前進であった。予想を上回る資金の獲得によって、急遽日本語吹替版制作が決定した。

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筆者

叶精二

叶精二(かのう・せいじ) 映像研究家、亜細亜大学・大正大学・女子美術大学・東京工学院講師

映像研究家。亜細亜大学・大正大学・女子美術大学・東京工学院講師。高畑勲・宮崎駿作品研究所代表。著書に『宮崎駿全書』(フィルムアート社)、「『アナと雪の女王』の光と影」(七つ森書館)、『日本のアニメーションを築いた人々 新版』(復刊ドットコム)、共著に『王と鳥 スタジオジブリの原点』(大月書店)、『マンガで探検! アニメーションのひみつ』(全3巻、大月書店)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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