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[神保町の匠]2019年の本 ベスト3(3)

『異界探訪記 恐い旅』『急に具合が悪くなる』『日本経済30年史』……

神保町の匠

駒井 稔(編集者)
ヤニス・バルファキス『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』(関美和訳、ダイヤモンド社)
 著者は、あのギリシャの経済危機の時に財務大臣を務め、EUからの財政緊縮策に敢然と異を唱えた気骨ある学者。訳者あとがきによると、スキンヘッドで革ジャンを着てバイクを乗り回す学者らしからぬ個性派だそうです。本書は、そんな著者がオーストラリアに住む10代の娘に向けて書いたという体裁をとっています。ですから語り口は非常に平易ですが、私たちを支配する資本主義についての非常に深い分析と根源的な批判が展開されています。なぜ、格差が生じるのか。市場、利子、労働力、そして仮想通貨についても、高度な知識を駆使して現在の資本主義を解析していきます。マルクスの多大な影響も感じられますが、一読して終わりではなく、真の理解に達するには何度も読み直す必要のある本格的な経済書だといえるでしょう。

ヤニス・バルファキス 拡大ヤニス・バルファキス

山家悠紀夫『日本経済30年史――バブルからアベノミクスまで』(岩波新書)
 バブルが弾けてからはや30年。それは平成と呼ばれた時代にほぼ重なります。失われた30年ともいわれるこの時代をどう捉えるべきか。著者は、「構造改革なくして日本の再生と発展はない」という強烈なスローガンをもって小泉内閣で断行された政策や、アベノミクスと言う仰々しい呼び名で始まった大規模な金融緩和をはじめとする諸政策について非常に優れた分析を施します。そして新自由主義に基づく構造改革という魔法が、日本の不況を救うという考え方が、これほど長期の試みを経ても、一向に事態を改善させない理由を明らかにしていきます。スターリニズムは20世紀の知の宗教でしたが、21世紀のそれは「新自由主義」ではないでしょうか。どちらも熱烈な信奉者をもち、そして歴史的には克服される存在として。

ウルリヒ・メーラート『東ドイツ史1945-1990』(伊豆田俊輔訳、白水社)
 まず、このような書物を刊行した訳者と出版社に対して敬意を表したいと思います。一般向けに書かれた通史とはいえ、最初から多くの読者を望むことはできない本だからです。本書は文字通り、東ドイツの成立から崩壊までを克明に綴った歴史書です。正直、専門外の人間には読了するのが楽な本ではありません。しかしそれでも読み通してしまうのは、ドイツ社会主義統一党の事実上の一党独裁の誕生から終焉までを、スターリニズムの奇怪さを十分に伝えながら、冷静かつ緻密に描き切った筆致の見事さではないでしょうか。しかしこれは終わってしまった物語ではありません。前掲の2書にも通じますが、現在を生きる私たちには、人間の救いがたい愚かさとそれでも真理が勝利するという認識に癒される思いがするのです。

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