メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

無料

お年寄りの「徘徊」を芝居にする

主演は88歳。上演までの道行き/高齢者、認知症と楽しく生きる俳優の覚え書き(4)

菅原直樹 俳優・介護福祉士

芝居を作る。テーマは「徘徊」

介護と演劇拡大岡田忠雄さん(左)と筆者

 88歳の岡田さんと芝居を作ることになった。ただ、どんな芝居を作るのかは全く考えていなかったので、ひたすら岡田さんの家に行って岡田さんの話を聞いた。戦争の話から介護の話まで。

 介護の話をしているときに、最近、認知症の奥さんが外に出てしまって困っているという話になった。この間は、明け方に奥さんが行方不明になって、新聞配達員と一緒に町内を探し回ったそうだ。

 岡田さんは耳が遠いが、奥さんは耳がいい。僕が岡田さんの家に電話をすると、岡田さんが電話の音に気付かずに、奥さんが受話器をとる。

 「ご主人の忠雄さんはいますか?」

 「忠雄ですか。いるかな…。ちょっと待ってください」

 それから延々と沈黙が続く。待てども待てども人の気配がしないので、5分ほど待ったところで電話を切った。

 岡田さんが2階の部屋にいると、奥さんが玄関を出る音が聞こえない。夕方になって奥さんの部屋を覗くと、もぬけの殻。岡田さんは足腰が弱くなってきているが、奥さんは足腰が丈夫なようで、遠くまで行っていることが多い。これまで警察に2回保護されていると言う。

 岡田さんと奥さんには子供はいない。自身も高齢なのに、奥さんを介護することは大変なことだ。僕は岡田さんと一緒に老老介護の現実を演劇で表現をしたいと思った。テーマは徘徊(はいかい)にしよう。徘徊に困っている岡田さんと一緒に、演劇を作りながら徘徊とは何かを考えることができたら。

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

菅原直樹

菅原直樹(すがわら・なおき) 俳優・介護福祉士

1983年宇都宮市生まれ。 「老いと演劇」OiBokkeShi主宰。 2010年より特別養護老人ホームの介護職員として勤務。12年、東日本大震災を機に岡山県に移住。認知症ケアに演劇的手法を活用した「老いと演劇のワークショップ」を全国各地で展開している。 18年度芸術選奨文部科学大臣賞新人賞(芸術振興部門)を受賞。

菅原直樹の記事

もっと見る