『旅のおわり世界のはじまり』『帰れない二人』『盆唄』……
2019年12月30日
『旅のおわり世界のはじまり』(黒沢清)
映画ならではのエモーションをかきたてる、圧倒的な達成を示した本作を今年度の最高作として挙げたいが、歌手志望のTVレポーター・前田敦子の、異国の地でさまざまな試練に耐えて自己実現を目指す成長物語が、これ以上は望めないほど精度の高い演出・撮影・プロット構成で描かれる。前田の歌う「愛の讃歌」にも全身が震える(これが映画だ!)。2019・07・09、同・07・23、同・07・25の本欄参照。
『帰れない二人』(ジャ・ジャンクー)
17年間におよぶヒロインとその恋人のラブストーリーを、高度経済成長期の中国の激変を背景に、名匠ジャ・ジャンクーがメロドラマティックかつ叙事詩的に描き出した傑作。パーソナルな恋愛劇と中国社会の変貌とを、すなわちミクロな物語とマクロな物語とを重層させる作劇に唸らされる。また、広大な長江流域を移動してゆくヒロインの漂流感の描写も、冴えに冴える(これが映画だ!)。2019・09・06、同・09・24、同・09・26の本欄参照。
『盆唄』(中江裕司)
2011年の原発事故で福島県双葉町の町民らが離散したため、消滅の危機にあった双葉盆唄復興をめぐる傑作ドキュメンタリー。盆唄存続を強く願う太鼓の名手を中心に映画は進行するが、盆唄のルーツをめぐって舞台がハワイ、富山へと移動し、ふたたび福島へと戻るという展開に瞠目。そしてラストの、唄・太鼓・笛が時空を超えて響き渡り、人びとが輪になって踊るシーンでは、喜びと哀感が混然一体となって沸き立ち、心を強く揺さぶられる(これが映画だ!)。2019・03・13の本欄参照。
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(クエンティン・タランティーノ)
1969年という、映画の黄金期(1930―40)など遠い過去になってしまった衰退期の映画都市を舞台に、落ち目の西部劇俳優とそのスタントマンが、かの「シャロン・テート事件」に遭遇するまでを描く快作。タランティーノらしい虚実入り混じる語りが、すこぶる快調。2019・10・08、同・10・10の本欄参照。
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