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江國香織さんと読む「がまくんとかえるくん」

友情とも恋愛ともいえる「こんな関係があっていいじゃない」という物語

前田礼 市原湖畔美術館館長代理/アートフロントギャラリー

拡大江國香織さん

 実はつい最近まで江國香織さんの小説を読んだことがなかった。もちろん彼女の存在はずっと前から知っていた。若くしてデビューし、直木賞作家で、恋愛小説の名手。作品は次々と映像化され、今をときめく役者さんが出演。その華やかなイメージと、ご本人の美しい容姿があいまって、何となく「自分とは世界が違う」と敬遠していたのだ。

 ところが、池澤夏樹個人編集『日本文学全集』(河出書房新社)におさめられている江國訳「更級日記」を読む機会があって驚いた。才気あふれる生き生きとした現代語訳。「あとがき」も痛快だった。

 「江國香織ってどんな作家?」それを知りたいと思って読み始めた江國さんの作品世界は実に幅広く、私の先入観は気持ちよく裏切られていった。「更級日記」作者の菅原孝標女と同じく、江國さんご本人もまた「本を読んで大人になった少女」であった。江國さんに会いたい!

 かくして、江國さんを私たちの読書会にお招きすることになった。

デビューは童話作品

拡大絵本を持って語る江國香織さん
 江國さんが読書会のために選んでくれたのは、アーノルド・ローベルの「がまくんとかえるくん」シリーズの4冊だった。

 江國さんのデビュー作は童話である。22歳の時に児童文学雑誌『飛ぶ教室』に投稿した「桃子」が入選し、その翌年には「草之丞の話」で「小さな童話大賞」を受賞している。

 前者は若き修行僧と7歳の少女の恋の顛末を描き、後者は女優の母と幽霊で侍の父と息子との家族の物語である。どちらも飯野和好さんの絵で絵本にもなっているのだが、何とも不思議な、妖艶で、ちょっと怖いお話だ。私は馬と娘が結婚してしまう「遠野物語」の「オシラサマ」を思い出した。洋風なイメージのあった江國さんが見事に描き上げたファンタジーと怪異譚のあわいにあるような「和」の世界に、心がふるえた、

 実際、赤ちゃんの時からディック・ブルーナの「うさこちゃんシリーズ」など、“洋モノ”絵本で育った江國さんが、小学校の読書で最初に熱中したのは「わらしべ長者」だったそうだ。「泣いた赤鬼」もしかり。日本の昔話のもつ、湿度、強さ、切なさ――。自分と地続きで切実な世界がそこにはあったという。

 その衝撃は、大人になった江國さんの創作をいまも支え続けているもののひとつかもしれない。


筆者

前田礼

前田礼(まえだ・れい) 市原湖畔美術館館長代理/アートフロントギャラリー

東京大学大学院総合文化研究科博士課程(フランス語圏カリブ海文学専攻)在学中より「アパルトヘイト否(ノン)!国際美術展」事務局で活動。アートフロントギャラリー勤務。クラブヒルサイド・コーディネーター。市原湖畔美術館館長代理。「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」「ヨーロッパ・アジア・パシフィック建築の新潮流」等の展覧会やプロジェクトに関わる。『代官山ヒルサイドテラス通信』企画編集。著書に『ヒルサイドテラス物語―朝倉家と代官山のまちづくり』(現代企画室)。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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