江國香織さんと読む「がまくんとかえるくん」
友情とも恋愛ともいえる「こんな関係があっていいじゃない」という物語
前田礼 市原湖畔美術館館長代理/アートフロントギャラリー
孤独の豊かさ

江國さんを“つくった”本についてもたくさん話をしてくれた。本の"目利き”でもあり、江國さんが紹介してくれた本はみんな読みたくなってしまう。
江國さんは、がまくんとかえるくんの礼儀正しさが好きだという。2人はどんなに近しくても他者であり、それを守っている。他者をすべて理解することは不可能であり、人は孤独から逃れることはできない。でも孤独は決して悪いことではない。孤独を大事にすることで、滋味豊かな関係が築けるのだと江國さんは語った。
愛しているものや美しいもの、大切なもののいちばんいい保存方法は、物語にすることだ、と江國さんは言う。そこに彼女が作家になった必然があるのだろう。「がまくんとかえるくん」はかけがえのない出来事を保存した、理想の友情の物語である。
会場は江國さんを読んで大人になった20代から40代の女性たちでいっぱいで、江國さんが丁寧に発するひと言ひと言を大切な宝物のように受け取っていた。
“にわかファン”の私は、どうしてもっと早く江國さんを読んでいなかったのだろう、とちょっと悔しく思いながらも、今だからこそ江國さんの小説をこんな風に味わえたのだ、と考えることにした。そして、江國さんに出会わせてくれた1000年前の文学少女・菅原孝標女と、「更級日記」の現代語訳を江國さんに依頼した池澤夏樹さんに感謝したいと思うのだ。
本は人を介して伝わり、人との出会いを紡ぐ。
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次回の読書会は、編集者・野村由芽さんをお迎えして1月29日(水)19時よりクラブヒルサイドサロン(代官山)で開催します。テーマは「自分らしく生きるために」。取り上げる本はミランダ・ジュライ『あなたを選んでくれるもの』(新潮クレスト・ブックス)です。ご参加をお待ちしています。
http://hillsideterrace.com/events/8946/

柚子と木の子とほうれん草の秋のおむすび。江國さんのお名前"かおり“の響きに誘われて、黄色い柚子の皮で香りを添えた。スティルウォーターのプロデュース。
(撮影:吉永考宏)