菅野朋子弁護士に聞く「男を産むことを強いられるプレッシャー」
2020年01月08日
令和になって「愛子天皇待望論」がヒートアップしている。愛子さまが大変優秀で、人望も厚いと強調し、週刊誌には「雅子さま、愛子さまへの天皇教育を決意」などという見出しも踊る。背景にあるのは、各種世論調査から浮かび上がる「女性天皇」容認の声だろう。共同通信が2019年10月末に実施した調査では、81.9%が「女性天皇を認めることに賛成」と答えている。
一方、安倍政権は皇位継承問題を先送り中だ。天皇退位特例法が付帯決議で、速やかに検討せよとした「女性宮家の創設等について」さえスルー。首相の主たる支持者が「男系男子による継承」に強くこだわっているからだ。
19年11月にオンエアされた「羽鳥慎一モーニングショー」(テレビ朝日系)は、竹田恒泰さんをゲストに皇位継承問題を取り上げた。神武天皇以来の「男系男子」を守るべきで、「旧宮家の皇籍復帰」で安定的皇位継承はできると解説する竹田さん。保守派のいつもの主張だったので聞き流していたが、1人のコメンテーターの意見に驚いた。
レギュラーコメンテーターで、弁護士の菅野朋子さんがこう言っていた。「私が一つ申し上げたいのは、女性・女系天皇を認めないということがどれだけ女性にとって苦痛か、女は男を産まなければいけないんですか。そこを強いられることになるんですよ」。
天皇は「国民統合の象徴」だから、「女性・女系天皇」についても国民自ら考えねば。そういう「べき論」はたくさん聞き、たくさん読んだ。だが、「女性・女系天皇を認めないことが、女性の苦痛になる」とはっきり聞いたのは初めてで、そこからじっくり見始めた。
「今は1人の女性だけだが、どこかで(男子が)生まれればいい」ので旧宮家復帰なら大丈夫。そういう趣旨を語る竹田さんに、菅野さんは「女性にとって男子を産まなくては認められない。そのことを突きつけられる。その価値観というものは、今は国民になかなか受け入れられないのではないですか」と反論していた。
菅野さんの言葉は「皇室は国民と地続き」で、その延長線上に女性・女系天皇問題があるという指摘だと思った。皇后雅子さまが受けた「男子出産」圧力については考えたことがあったが、それが国民に与える影響については考えたことがなかった。菅野さんの考えをもっと知りたくなり、インタビューを申し込んだ。
長い前置きになった。ここから菅野さんのインタビューを紹介する。
――「女性にとって苦痛」という発言は、どんな思いからしたのですか。
菅野 放送前日に「女性・女系天皇」がテーマになると聞き、そのことを言おうと決めました。「国民統合の象徴が男性でなければならないというのは、女性差別だ」といった意見は、同席する男性コメンテーターからも出るだろう。けれど「絶対に男の子を産まなくてはならない」ことが、どれだけプレッシャーか。そのことは、おそらく女性にしかわからない。だから言おうと思いました。
私も出産を経験して初めてわかりましたが、子どもを産むというのは大変なことです。その大変さだけでなく、生まれた子どもの男女を区別し、男子の出産を強いる。そんな制度はおかしいとずっと思っていました。
雅子さまが病気になられた一因はそのプレッシャーだということは、すでにいろいろな方が指摘しています。国民も含め、みんなが男子出産を期待し、その人の価値がそれをしたかしないかだけで測られてしまう。「男女平等」かどうか以前に、「男系男子」という制度は人間としてあまりにも酷。皇后になられる方も、1人の女性ですから。
生まれた子どもの側からもそうです。女の子の場合、みんなが「男の子でない」と騒ぐわけですから、どれだけ苦痛なことか。皇后という立場の方、そこに生まれた女の子、どちらにとっても今の制度は人間性を否定することになると思います。
――2016年、15歳になった愛子さまがとてもお痩せになり、「拒食症」が心配されました。
菅野 愛子さまは、「お母さんが批判されるのは、自分が女の子だからだ」と自分を責めてしまったのだと思います。1人の女の子としてあまりにもかわいそうで、そんなことを繰り返してはいけないと思います。私も摂食障害になったことがあるのですが、それは自己否定感から始まりました。愛子さまに自分を否定する理由など見当たらず、「男の子でない」ことの葛藤がおありだったと思います。
卑近な例になりますが、私には兄がいます。私が生まれた時、周囲の人たちが「女の子でよかったね」と両親に言ったのだそうです。
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