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ショーウィンドウに響く〝山師たちの唄〟 その2

【10】高峰秀子「銀座カンカン娘」

前田和男 翻訳家・ノンフィクション作家

唄:「銀座カンカン娘」(高峰秀子)
時:昭和24年(1949)
場所:東京・銀座

ショーウィンドウに響く〝山師たちの唄〟 その1

「 ♪世界のことばマクドナルド」、銀座に初上陸

拡大開店初日のマクドナルド日本1号店=1971年7月20日、東京都中央区

 三島海雲と銀座の物語は、たまたま敗戦直後の異常事態に起きた例外ではないかと言われるかもしれない。ところがそれから四半世たって、またもや同様の事件が起き、私の銀座観をいっそう軽くし銀座に対する敷居を大きく下げてくれたのである。

 それでは引き続いて、これまた三島海雲も顔負けの講談本から抜け出てきたような人物と銀座をめぐる物語へと移るとしよう。

 翌年で銀座の赤煉瓦街が誕生して100年を迎えるという節目の昭和46年(1971)、「もっとも銀座らしからぬ」といわれた事件が世間をさわがせる。7月20日、東京のど真ん中の銀座4丁目交差点の老舗百貨店1階にアメリカから上陸したハンバーガーチェーンの1号店がオープンしたのである。

拡大開店から約1年。アサヒグラフには「1972年 西洋ふう立ち食い屋大繁盛 天下太平! この食欲」という記事が掲載された=アサヒグラフ1972年5月5日号
 かけそば1杯が100円の時代に、売り出されたハンバーガーの値段は1個80円。日本人の口に合うはずがないという大方の冷ややかな声を裏切って、1万人が押しかけ、早くも初日で大当たりをとる。若者たちが行列をつくる社会的事件に世間の耳目があつまるなか、やがて全国のテレビのブラウン管から、白化粧に赤い鼻のピエロが愛嬌をふりまく映像とともに、こんなCMソングが流れはじめた。

  ♪世界のことば マクドナルド
 世界中おいしい笑顔
 世界中うれしい願い
 いつだって どこだって 誰だって
 おいしいことばは 一つだけ
 世界のことば マクドナルド

 これぞ、明治の脱亜入欧による洋食の登場から100年をへて起きた、ファストフードという名の「食の文化大革命」の始まりを告げる「鬨の声」であった。

 これを聞いて、私のように銀座を敷居が高いと思っていた若者たちは敷居が低くなったと喜び、いっぽう銀座を崇めてきた紳士淑女たちは眉をひそめたが、銀座自身にとっては次なる飛躍のための活力をもらえるまたとない革命的事件であった。


筆者

前田和男

前田和男(まえだ・かずお) 翻訳家・ノンフィクション作家

1947年生まれ。東京大学農学部卒。翻訳家・ノンフィクション作家。著作に『選挙参謀』(太田出版)『民主党政権への伏流』(ポット出版)『男はなぜ化粧をしたがるのか』(集英社新書)『足元の革命』(新潮新書)、訳書にI・ベルイマン『ある結婚の風景』(ヘラルド出版)T・イーグルトン『悪とはなにか』(ビジネス社)など多数。路上観察学会事務局をつとめる。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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