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1冊の「危険な読書」が人生と世界を変える

野上 暁 評論家・児童文学者

こんな本もあったのかと目から鱗

 『危険な読書』のとっかかりは、映画評論家の滝本誠と荒俣宏の対談「10代で読んでおきたい異常本。」。まさに高校国語の方向転換を進める教育界の意識を逆なでするかのような、世間の常識を転倒させる危ない書物に「若いうちに出会え!」と檄を飛ばす。江戸川乱歩の『犯罪図鑑』、高見順の『いやな感じ』、マルキ・ド・サドの『ジェローム神父』などが、ほぼ同世代の二人の好奇心旺盛な少年時の読書体験を通して語られる。

 それに続くのは、詩人の吉増剛造の「自分の中の“怪物”に出会う。」。これは読書による自己発見。見開きページのバック全面に、びっしりと象形文字状の地紋のように敷かれているのは、吉増が吉本隆明の著作を彩色を施しながら写筆したものだ。この作業をしゃべりながらする様子を自ら録画しているというのだから、これも奇矯だが、著作からインスパイアされた読書のありようでもある。

 そして自分が“怪物”と出会った4冊として取り上げたのは、知里真志保『地名アイヌ語小辞典』、荒木経惟『センチメンタルな旅』、亀井俊介編『対訳 ディキンソン詩集』、『ファン・ゴッホの手紙』。それぞれに紹介される怪物ぶりが吉増らしい。

 「荒唐無稽を味わう。」「文学の副作用。」「ポリティカルな読書のススメ。」と続き、「活字中毒者の本棚。」の天井まで積み上げられた膨大な本を背にした、内藤陳の部屋の写真には圧倒される。さらに「反社会的な、社会派出版社。」として、東京キララ社を紹介。「危ない水野しずの読書遍歴。」で彼女が「混沌とした気持を支えた4冊」として、安部公房『笑う月』、北大路魯山人『魯山人味道』、都築響一『圏外編集者』、町田康『リフォームの爆発』が挙げられる。これもなかなか意味深長だ。

 「骨太! 社会派ノンフィクション。」は、武田砂鉄と荻上チキの対談。「ジェンダー 差別や迫害と戦う女性たち。」として、武田は布施えり子『キャバ嬢なめんな。――夜の世界・暴力とハラスメントの現場』、ヴィクトリア・ヴァントック『ジェット・セックス――スチュワーデスの歴史とアメリカ的「女性らしさ」の形成』などを挙げ、「社会問題」で荻上は外国人労働者の実態に迫った、ななころびやおき(山口元一)『ブエノス・ディアス、ニッポン~外国人が生きる「もうひとつの日本」~』を取りあげる。「歴史検証」「重大事故」「人種問題」と取りあげるテーマも紹介する本も刺激的だ。

 「自民党の2大潮流を辿る読書。」は、田中秀征とミュージシャンの西寺郷太の対談。田中の『自民党本流と保守本流 保守二党ふたたび』を軸に、保守本流が戦時下における深刻な反省を保持してきたのに対し、今の安倍政権につながる自民党本流の戦争に対する無節操な危うさが炙りだされる。

 サイゴン生まれで『アメリカ死にかけ物語』の作者リン・ディンと川上未映子の対談「アメリカ社会の底辺からの手紙。」、赤坂憲雄と川上弘美の対談「食べること、交わること、混沌とすること。」は、いずれもエキサイティング。それに続く対談、菊地成孔と廣瀬純「思考する美食。」では、ドゥルーズ+ガタリの『アンチ・オイディプス』や、レヴィ=ストロース『野生の思考』まで俎上にあげて料理とセックスの関係が語られ、赤坂・川上対談にも重なり文化人類学的にも興味深いものがある。

 「ジム・トンプスンとアメリカ犯罪小説。」「戦慄の東欧文学。」「世にも不思議なSF作家グラフィティ。」「世界の奇書・珍本。」「極限状態、漂流文学。」「怒りの文学。」「日常のひずみを垣間見る文学。」「ポップソングと江戸文芸。」「ニッポンのオカルト。」「嘘のようなホントの話。」「奇妙な生き物が出てくる本。」「ぞっとする俳句、短歌。」と、ユニークな切り口で文学の多様性が多彩な著作とともに紹介され、こんな本もあったのかと目から鱗モノも少なくない。

tdee photo cm/Shutterstock.com拡大たった1冊の本が自分の人生を変えるかしれない tdee photo cm/Shutterstock.com

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筆者

野上 暁

野上 暁(のがみ・あきら) 評論家・児童文学者

1943年生まれ。本名、上野明雄。小学館で子ども雑誌、児童図書、文芸書、学術書などの編集部門を担当。著書に『おもちゃと遊び』(現代書館)、『「子ども」というリアル』『日本児童文学の現代へ』(ぱろる舎)、『子ども学 その源流へ』(大月書店)、『越境する児童文学』(長崎書店)など。編著に『わたしが子どものころ戦争があった――児童文学者が語る現代史』(理論社)、『子どもの本ハンドブック』(三省堂)、『いま子どもに読ませたい本』(七つ森書館)など。日本児童文学学会会員。日本ペンクラブ常務理事。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです