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新生『デスノート THE MUSICAL』開幕

村井良大、甲斐翔真らオール新キャストで、今の日本に問いかけるミュージカル

大原薫 演劇ライター


 オール新キャストによる『デスノート THE MUSICAL』が開幕した。日本累計3000万部を超える大人気漫画『DEATH NOTE』(原作 大場つぐみ 漫画 小畑健)を舞台化した作品。音楽はブロードウェイの巨匠フランク・ワイルドホーン、演出は栗山民也で2015年に初演され、大きな評判を呼ぶ。日本版のままの演出で韓国人キャストによる韓国版上演という偉業を成し遂げ、2017年に再演された。

 今回の上演は再々演という枠に留まらず、全員新キャストで作品の本質に肉薄する。村井良大と甲斐翔真がダブルキャストで主人公・夜神月(らいと)を演じる公演。村井主演版の公演をレポートする。

夜神月で村井良大の「今まで出したことがない声」を聞いた

拡大『デスノート THE MUSICAL』公演から、左)夜神月役・村井良大/中)エル役・髙橋颯/右)死神リューク役・横田栄司=撮影:田中亜紀 (C)大場つぐみ・小畑健/集英社

 「このノートに名を書かれたものは40秒以内に死ぬ……」デスノートを手にした学生、夜神月と彼を追い詰める天才探偵L(エル)との死闘を描いた作品。息を飲む心理戦が展開されるが、演出の栗山民也は「正義とは何か」という問題を鋭くあぶり出す。

 出発点は「平和な世界を作りたい」という素朴な願いだった。だが、「平和」を実現できる(と思える)手段を手にしたことで、夜神月の正義は暴走していく……。正義の名の下に世界のあちこちでテロが繰り返される今の時代。現代的なテーマをより際立たせるため、夜神月を「選ばれた天才」でなく、デスノートを偶然手にしてしまった、どこにでもいそうな学生として表現する。

 栗山の演出を体現するのが、村井良大だ。村井はミュージカル『RENT』のマーク役やミュージカル『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』のチャーリー・ブラウン役などで活躍し、あたたかみのある演技と人の好さそうな笑顔が印象的な俳優。村井が夜神月と聞いて、正直驚きもあった。

 だが、村井はリアリティのある演技で月に命を吹き込む。東大に首席で合格するほどの秀才ではあっても、研ぎ澄まされた天才ではなく、普通の感覚を持った学生。冒頭に行われる授業の場面で、先生と正義について議論を交わす月が見せる正義感は決して突出したものではない。

 だからこそ、デスノートを手にして自分が正義を実現できると確信したときに、その思いで暴走してしまう怖さが実に真実味をもって感じられるのだ。『デスノート』の舞台でも村井特有の笑顔が時折見られるが、人の心をあたためずにはいられない笑顔を見せる青年が正義の名のもとに殺人を繰り返すという落差に戦慄を覚えずにはいられない。

拡大『デスノート THE MUSICAL』公演から、夜神月役・村井良大=撮影:田中亜紀 (C)大場つぐみ・小畑健/集英社
 村井の演技の特性は作り出す人物像が地に足がついて、「そこに生きている人」というリアルさを感じさせながら、見る者の共感を呼ぶということ。村井はデスノートを手にしたことを媒介として、普通の学生が「新世界の神」キラになるまでの過程をまるでドミノ倒しのようにつぶさに見せる。

 栗山は著書『演出家の仕事』の中で、演出しているとき俳優に、「あなたが今まで出したことのない声が聞きたい、だって私達は現実の中でこんな状況に出会ったことなどないのだから」と求めると書いていた。1幕の終わり近く、新宿駅の雑踏の中で越えてはならぬ一線を越えたときの歌声(「デスノート」リプライズ)はまさに、「村井良大の今まで出したことのない声」だった。初演の月役の浦井健治、柿澤勇人、韓国版のホン・グァンホ、ハン・チサンとも違う、村井だけが表現できる月……刃のように鋭くテーマを突き付け、作品のドラマを一気に高めた。ラストシーン、「最後の40秒」の村井は鬼気迫るものがあった。

★村井良大&甲斐翔真インタビューはこちら

◆公演情報◆
『デスノート THE MUSICAL』
東京:2020年1月20日(月)~2月9日(日) 東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)
静岡:2020年2月22日(土)~2月23日(日) 清水マリナート
大阪:2020年2月29日(土)~3月1日(日) 梅田芸術劇場 メインホール
福岡:2020年3月6日(金)~3月8日(日) 博多座
公式ホームページ
公式twitter
[スタッフ]
音楽:フランク・ワイルドホーン
演出:栗山民也
[出演]
村井良大/甲斐翔真(Wキャスト)、髙橋颯
吉柳咲良、西田ひらり
パク・ヘナ、横田栄司、今井清隆 ほか

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筆者

大原薫

大原薫(おおはら・かおる) 演劇ライター

演劇ライターとして雑誌やWEB、公演パンフレットなどで執筆する。心を震わせる作品との出会いを多くの方と共有できることが、何よりの喜び。ブロードウェー・ミュージカルに惹かれて毎年ニューヨークを訪れ、現地の熱気を日本に伝えている。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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