2020年01月29日
2017~19年は、性犯罪に関する画期的な年となったと、後世の歴史家は判断するかもしれない。
2017年、#MeTooの叫びが澎湃(ほうはい)として起きて社会的な運動に発展し、ちょうど日本でも、それまでの論議を踏まえて110年ぶりに刑法の性犯罪条項が改定された。
2019年には、後述するように無謀な無罪判決が立て続けに出されて、大きな社会意識の変化を生んだ。
4月以来の「フラワーデモ」では、ふつうの市民が、たくさんの人が集まりうる広場において、一般市民の目に自らの顔・身体をさらして、あたかも堰を切ったように、性被害の体験を語り始めた。そして12月には、ジャーナリスト伊藤詩織氏の民事裁判において――刑事手続きでは不起訴となり、検察審査会も不起訴相当を議決したという事実があったとはいえ――被告に賠償が命ぜられ、かつ伊藤氏による、加害者の実名を出した訴えに対して公共性・公益性が認められた事実は、画期的であった。
こうした動きの先に2020年を位置づけなければならない。2020年には、2017年の刑法改定後、初めての見直しが行われることになっている。
そもそも2017年の刑法改定は、いかなるものだったか。
刑法は、1880年に制定された。だが、四半世紀を経た1907年に、今日の刑法につながる改定刑法が制定、翌年に施行されている。その刑法のうち性犯罪条項は、実に110年の長きにわたって、一切手がつけられずに来た。だが各種運動・論議の成果もあって、この年に、性犯罪に関連して抜本的な改正が行われた。それは次のとおりである――
・性犯罪(強かん罪・準強かん罪・強制わいせつ罪・準強制わいせつ罪)を非親告罪化した、
・その法定刑を引き上げた、
・親等の「監護者」による性虐待を、後述する暴行・脅迫要件なしに処罰化する条文を設けた、そして、
・従来被害者を女性と見なしていたが、性犯罪の対象を(膣への)性交を含む広義の性交(肛門への、口腔への)とし、被害者を男女両性に広げた。この故に強かん罪は「強制性交等罪」と改められた。
だが、被害者・支援者等が要求してきたいくつもの改正要求は、生かされなかった。それを以下に予定している論述の順序で記せば、次のとおりである――
(1) 法定刑を強盗罪以上の有期懲役にする、
(2) 現在13歳とされている性交同意年齢(つまり暴行・脅迫要件をみたさずとも強かん罪等が成立する年齢の下限)を引き上げる、
(3)「監護者」にかぎらず、多様な仕方で女性を含む弱者に、権力・権威を通じて影響・支配力を及ぼしうる立場の人物の性犯罪を罰する条項を設ける、
(4) 年少者が被害者の場合の公訴時効を停止・撤廃する、
(5) 強かん罪(準強かん罪を含む)の構成要件である「暴行・脅迫」要件(その程度は「被害者の抵抗を著しく困難にする程度のもの」とされてきた)を廃し、「不同意」を構成要件として、「強制性交等罪」を「不同意性交等罪」に代える。
また、刑法改定の問題ではないが、次のような関連法・制度の変革も、少なくない論者によって提起されてきた――
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