2020年02月05日
本年に予定されている改定刑法(性犯罪条項関連)の見直しに向けて、本稿第3回で、強かん罪(強制性交等罪)の構成要件を見直すよう提案したが、今回は、これに関連して問われるべき問題にふれたい。
まず、刑法における構成要件の見直しと同時に、刑事訴訟法上の原則の変更が要求される。重要なことは、被告人に、被害者の「同意」――しかも不承不承(ふしょうぶしょう)の消極的な同意ではなく積極的・自発的な同意――をどのように確認したのかを、明示させることである。
これまで性犯罪事犯では、性関係に同意していなかった場合、被害者がその点の裏付け証拠(補強証拠)を提示させられるという困難を強いられてきた。だがそれが、いかに被害者を苦しめ(だいいち起こった事態を満足に客観化できない状況下で、相手の攻撃に的確に対応すること自体が困難なことが多い。その時、裏付け証拠など簡単に出せるものではない)、しかも、市民的良識からはとうてい受け入れられない多くの性犯罪を無罪とする一大要因となったか。
理不尽きわまることだが、明確な抵抗の跡を、しかも身体その他に物証が残る形で提示しなければならない(これが今日被害者に求められている)としたら、被害者は自らの命を捨てる覚悟をもたなければならなくなるだろう。また、名古屋地裁の事犯に見るように(杉田「父娘「準強かん」、異常な無罪判決と裁判官の無知」)、強いアルコールのせいで心神喪失状態にあったにもかかわらず「不同意」を立証することなど、定義からして不可能である。だがそれを求める不正義を不正義と認め、刑事訴訟法の欠陥を変えていく努力が不可欠である。
一方、加害者が、被害者の「同意」を証明することはできるし、特に「同意」をどのように確認したかについて説明を求めること(国際連合女性の地位向上部『女性への暴力防止・法整備のための国連ハンドブック――政府・議員・市民団体・女性たち・男性たちに』梨の木舎、2011年、53頁)は、はるかに容易である。たいてい加害者は犯行時に意識鮮明である。泥酔状態でことに及ぶこともあるが、それでも自らの目的を多少なりとも理解し意識した上でなければ、ふつう犯行には及びえない。
そして、被告人に上記の説明を求めることは、「不同意性交等罪」の創設という点では逆説的だが、「冤罪」の防止にも寄与しうる。
性犯罪がからむ冤罪として典型的なのは、2006年3月の名古屋地裁で裁かれた類の事件であろうか。ある男性が、「恋仲」と思っていた同僚女性が泥酔したために、求めに応じてその車で自宅まで送り届けた。その際、女性が「泊まっていっていいよ」と述べたために部屋に上がり性関係をもったが、翌日女性から強かんの被害届が出されたのである。被疑者はそのまま起訴されたが、公判の過程で、供述の変遷や同僚の証言等から女性の供述の不自然さが認定されて、被告人に無罪が言い渡された(粟野仁雄『「この人、痴漢!」と言われたら――冤罪はある日突然あなたを襲う』中公新書ラクレ、2009年、37-8頁)。
だが、女性が「泊まっていっていいよ」と述べたとしても、
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