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『リチャード・ジュエル』と『テッド・バンディ』の奇妙な対称性

藤崎康 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

ずさんな捜査の犠牲者であり、“報道被害者”

 『ジュエル』は、物語の運びの巧みさにおいても、描写の冴えにおいても、ここ数年のイーストウッド作品では突出した傑作であるが、1962年生まれのリチャード・ジュエル/ポール・ウォルター・ハウザーは、先述のように、善良で生真面目な肥満体の警備員だ。

 1996年7月のある日、彼は、アトランタ五輪の会場近くの公園で爆発物を発見する。ジュエルが避難誘導している間に爆弾は爆発し、2名の死者を出すが、彼の迅速な指示によって多くの人命が救われ、メディアはこぞって彼を英雄として讃える。

 だが、異常犯罪の犯人像の分析技法であるプロファイリングにとらわれたFBI は、不当にも、第一通報者のジュエルを爆弾事件の容疑者――自作自演の爆弾犯――であると特定し、強引な捜査を開始する。そして、FBI捜査官トム・ショウ(ジョン・ハム、好演)から情報を得た地元紙のキャシー・スクラッグス記者(オリビア・ワイルド)らは、功名心にかられて、ジュエルを容疑者扱いする記事をセンセーショナルに書きたてた。

『リチャード・ジュエル』=2019 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC拡大『リチャード・ジュエル』 © 2019 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

 こうして、FBI/国家の暴走と、手のひらを返したようなメディアの偏向報道により、

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筆者

藤崎康

藤崎康(ふじさき・こう) 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

東京都生まれ。映画評論家、文芸評論家。1983年、慶応義塾大学フランス文学科大学院博士課程修了。著書に『戦争の映画史――恐怖と快楽のフィルム学』(朝日選書)など。現在『クロード・シャブロル論』(仮題)を準備中。熱狂的なスロージョガ―、かつ草テニスプレーヤー。わが人生のべスト3(順不同)は邦画が、山中貞雄『丹下左膳余話 百万両の壺』、江崎実生『逢いたくて逢いたくて』、黒沢清『叫』、洋画がジョン・フォード『長い灰色の線』、クロード・シャブロル『野獣死すべし』、シルベスター・スタローン『ランボー 最後の戦場』(いずれも順不同)

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