真打ち昇進、大名跡襲名を前に臨んだ「連続読み」の魅力【上】
2020年02月08日
「いま最もチケットがとれない……」「風雲児」は、勢い盛んなパフォーマーに冠される決まり文句だが、講談界の気鋭、神田松之丞(まつのじょう)は、掛け値なしに、この枕詞がぴったりな一人だ。2月11日の真打ち昇進と大名跡である神田伯山(はくざん)襲名をひかえ、注目度はうなぎのぼり。ご本人の著書のタイトルを引けば「絶滅危惧職」である「講談師」に、世間の視線を集めている。
神田松之丞
1983年生まれ。2007年に三代目神田松鯉(しょうり)に入門。12年二ツ目に昇進。20年2月11日から真打ち昇進の披露興行が始まる。テレビやラジオでも活躍している。日本講談協会、落語芸術協会所属。著書に『絶滅危惧職、講談師を生きる』(聞き手・杉江松恋、新潮文庫)、『神田松之丞 講談入門』(河出書房新社)。
その松之丞がこの1月、大長編「畔倉重四郎(あぜくらじゅうしろう)」を口演した。5夜にわたる連続読みで、東京・東池袋の「あうるすぽっと」で2度(1月5~9日と11~15日)、名古屋の大須演芸場で1度(21~25日)、それぞれの「前夜祭」(別の演目を口演)を含め、合わせて17日間の長丁場だった。
「あうるすぽっと」は豊島区がつくった約300席の劇場だ。演劇やダンスを数多く上演しているが、演芸公演も主催している。劇場の制作担当者、師岡斐子(あやこ)は4年ほど前、よその会場で松之丞の口演を聴き、「あうるすぽっとの劇場空間とよく合うのでは」と考えたという。出演を依頼し、2018年お正月と同年10月の「奈々福の、惚れるひと。」(浪曲師・玉川奈々福が気になる伝統話芸の演者を紹介する企画)への登場が実現。その中で松之丞から「連続読みをやりたい」との提案があったという。
連続読みとは、長い一つのストーリーを何日もかけて口演してゆくこと。著書の中で松之丞は師匠の松鯉と〈連続物が一番面白いという意識は共有している〉と語っている(『絶滅危惧職、講談師を生きる』)。
約300席という広さ、集中しやすい黒い壁、比較的ゆったりした座りやすい椅子を備えた劇場「あうるすぽっと」は、長尺のものを聴くには、いい環境だ。松之丞はここで19年1月に「慶安太平記」(*)の5夜連続読みに2回臨んだ。その成功を受けての第2弾が、この1月の「新春連続読み 完全通し公演2020 『畔倉重四郎』」だった。
*「慶安太平記」
江戸の前期に、幕府転覆をもくろんだ由比正雪とその一党を描いた19話
「畔倉重四郎」。その最初のシリーズに通ってみた。
私(筆者)は、演劇の記者で演芸にそう詳しいわけではない。松之丞の生の舞台に接するのは初めてだ。
初日、劇場に入ってまず感じたのは、「これから特別な時間を過ごすぞ」という高揚感が客席にみなぎっていたことだ。5日続けて通おうというのだから、お客の方も気合が入っている。チケットは原則、通し券(一般16500円)のみで、あっという間に売り切れたと聞く。
老若男女、客層はバランスがいい。演劇公演で多い女性数人のグループはあまり見当たらず、逆に、演劇ではあまり見かけない男性の一人客が目につく。
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