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講談師、神田松之丞が示した「連続読み」の力

希代の悪漢「畔倉重四郎」に5夜向き合って見えたこと【下】

山口宏子 朝日新聞記者

 真打ち昇進と大名跡の神田伯山(はくざん)襲名を控えた講談師、神田松之丞。彼が松之丞の名で最後の「連続読み」に臨んだ「畔倉重四郎」のレポート、後半です(前半はこちら)。平然と殺人を繰り返す希代の悪漢の運命は――。第3夜から最終の第5夜まで、一気にまいります。

神田松之丞
 1983年生まれ。2007年に三代目神田松鯉(しょうり)に入門。12年二ツ目に昇進。20年2月11日から真打ち昇進の披露興行が始まる。テレビやラジオでも活躍している。著書に『絶滅危惧職、講談師を生きる』(聞き手・杉江松恋、新潮文庫)、『神田松之丞 講談入門』(河出書房新社)。日本講談協会、落語芸術協会所属。20年1月に東京と名古屋で「畔倉重四郎」の連続読みを3度口演した。

次はどうなる。お客は前のめりに

松之丞拡大口演する神田松之丞=橘蓮二撮影、あうるすぽっと[豊島区立舞台芸術交流センター]提供

 今回、松之丞とお客が5日がかりで向き合う主人公は畔倉重四郎。善良な父親から剣の腕と道場を受け継いだ。おまけに役者にしたいような男ぶり。しかし、博打で身を持ち崩し、悪の道をひた走る。まず逆恨みで恩人の命を奪い、その罪を杉戸屋富右衛門という商人に着せた。さらに博打場での強盗殺人にからんで6人、偶然の出会いから神奈川宿の大きな宿屋・大黒屋の婿におさまってからも1人と、次々人を殺めてきた。

 「連続読み」は、「次はどうなる」と、聴く者を前のめりにさせる。この演目では、「重四郎のさらなる悪を聴きたい」という「黒い期待」と、初日に姿を現した大岡越前守が「どう正義の裁きをするのか」という「白い期待」の両輪が気持ちを前に進める。いまのところ、「黒い期待」の方がずっと大きいのだけれど。

 東京の会場は、公演を主催する劇場「あうるすぽっと」(東池袋)。毎日、同じ時間に電車で通う。3日も続くと、なにやら通勤のような気分になってくる。講談を聴くという「非日常」が、特別な感覚は残しながらも、ちょっと「日常」になってきた感じか。

 第3夜は、またまた血なまぐさい9話「三五郎殺し」から始まった。重四郎は再会した悪友・三五郎の面倒をみていたが、金をせびられ、うとましく思い、殺害する。三五郎の妻おふみは、かつて大黒屋で働いていた女で重四郎が血で汚れた着物を洗うのを目撃している。気立ての良いおふみはその後、城富(じょうとみ)という男と再婚する。おふみは三五郎から聞いた重四郎の旧悪を、城富に告げる(10話「おふみの告白」)。城富は、重四郎にぬれぎぬを着せられた富右衛門の息子。ここ全編の折り返し点で、重四郎と城富、物語の主要人物が再び交わった。

 休憩を挟んで、城富が大岡越前守に重四郎の罪を訴える11話「城富奉行所乗り込み」、そして重四郎は捕縛される(12話「重四郎召し捕り」)。まだ7話も残して重四郎が捕まってしまったが、たぶん、この先、波乱の展開があるのだろうと想像しながら、帰途につく。

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筆者

山口宏子

山口宏子(やまぐち・ひろこ) 朝日新聞記者

1983年朝日新聞社入社。東京、西部(福岡)、大阪の各本社で、演劇を中心に文化ニュース、批評などを担当。演劇担当の編集委員、文化・メディア担当の論説委員も。武蔵野美術大学非常勤講師。共著に『蜷川幸雄の仕事』(新潮社)。

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